トシコとヒロミの往復書簡 第15回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

 

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井部俊子さんから川越博美さんへの手紙

訪問看護制度の創設

文:井部俊子

 

川越さんの手紙に、訪問看護の開拓者たちの「組織のバックもないまま現場から制度に物申してきた働き」や、「制度ができたときは、天からのプレゼントのようにうれしく感じた」ことが記されていました。訪問看護制度の創設に貢献したあなたも含めた現場の力とコミットメントに感動いたしました。

 

訪問看護制度は、看護政策の政策過程の研究として、准看護師制度の事例との比較として、研究され出版されています(野村陽子, 看護制度と政策, 法政大学出版局, 2015)。私はこの本を認定看護管理者教育課程サードレベルの講義に教材として使っています。野村論文では、看護政策の政策過程からみると、准看護師制度は政策決定に至らなかった失敗事例、訪問看護制度は制度の創設に至った成功事例として評価されています。

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トシコとヒロミの往復書簡 第14回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

 

川越さんイラスト

川越博美さんから井部俊子さんへの手紙

「今を生きる」に寄り添う看護
文:川越博美

 

「なぜ訪問看護師は制度矛盾に声を上げないのか」という井部さんの疑問に、言葉不足で十分に説明ができていなかったと反省しています。

訪問看護の創設期に、看護師たちが組織のバックもないまま現場から制度について物申してきた働きを忘れないでほしいという思いから、再度補足させていただきます。制度ができたときは、天からのプレゼントのようにうれしく感じました。当初は訪問すればするほど赤字になりましたが、それでも創設されたことに大きな意味があると考えていました。これから制度の中身を変えていけばよいと思ったのです。

訪問看護師たちは、報酬がなくても必要に迫られ行っていたことについて、データを集めて要望書を書きました。24時間対応への加算、ターミナルケア療養費、医療処置の多い人への特別管理加算……。療養通所介護や看護小規模多機能型居宅介護も、制度外のサービスをボランティアで提供していたことが始まりです。その現場も見学しました。ある訪問看護ステーションでは、事務所の一角に難病の利用者を預かり、「今日、この人は泊まっていくの」と説明してくれました。「家族を休ませてあげたいから」と。こうしたことは全国で行われていました。訪問看護師たちの新しいサービスを生み出す力に感動したことは忘れられません。

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地域ケアの今⑭

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

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秋の雑感

今年の夏を振り返って

文:上野まり

 

今年はオリンピック・パラリンピックイヤーでした。気温が高く暑い夏でしたが、早朝にかけて応援でさらに熱くなった人もいたでしょう。4年後の東京オリンピックを視野に入れてか、日本代表選手が準決勝や決勝に進む競技が多く、私も寝不足になるとわかっていてもテレビのスイッチが切れない……という日が続きました。柔道やレスリング、重量挙げ、水泳など、これまでも多くの選手が活躍してきた競技には期待が大きく、金メダルが取れないという贅沢な悔しさを何度も味わいました。

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トシコとヒロミの往復書簡 第13回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

 

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井部俊子さんから川越博美さんへの手紙

訪問看護ステーションビジネス

文:井部俊子

 

“ただ訪問する”ということ

 

訪問看護をライフワークとしてきたあなたの“昔話”を興味深く拝見しました。

 

介護保険制度施行以前は、訪問看護師の最大の顧客は医師であり、施行後はケアマネジャーになったという指摘に、訪問看護制度の苦難を

私は感じます。なぜ、顧客は訪問看護サービスを受けたい“住民”にならないのでしょうか。なぜ、訪問看護師は誰かが作成した“訪問看護指示書”や“ケアプラン”に従わなければならないのでしょうか。それらの効能はどのくらいあるのでしょうか。このためにどのくらいの対価が払われているのでしょうか。なぜ、訪問看護師たちはこのような制度矛盾に声を上げないのでしょうか。

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地域ケアの今⑬

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

 

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生活習慣を尊重する介護
時代と地域性を反映させる

文:鳥海房枝

 

私は福祉サービスの第三者評価に携わっており、その際に保育園を訪れたときは、園児と同じ献立の食事を一緒にいただいています。3歳児以上のクラスでは、私たち評価者は子どもから見ると祖父母の年齢に近いためか、細々と食事の世話をしてくれます。世話をされるより世話をすることが「好き」な気持ちはよくわかります。また、2歳児のクラスでは、はしを上手に使って食事する子どもと、スプーンで食べる子どもがいて、はしを使っている子どもが誇らしそうに食べている姿が印象的です。食事が終わるとトイレに向かう子どもも多くいます。

 

0歳から年長さん(5、6歳)までを集団でみる保育園では、子どもが生活習慣を身につけていくプロセスがよくわかります。そして入浴がないだけで、子どもの食事・排泄動作を誘導する職員の姿は高齢者ケア施設の職員に共通するものを感じます。

 

介護の世界で“3大ケア”として支援の基本にしているのが、食事・排泄・入浴です。さらに、入所施設では就寝時の更衣支援も、QOLの向上に位置づけて取り組まれています。そしてこれらの支援の際には、高齢者個々の生活習慣を尊重することを重要視しています。

 

今回は、高齢者への介護で極めて当然のように言われている生活習慣についてあらためて考えてみます。3大ケアのそれぞれに「習慣」の文字をつなぐと、食事習慣・排泄習慣・入浴習慣のようになんの違和感もなく意味が通じます。また「文化」の文字も同様につなぐことができます。

 

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