コミュニティケア冬号 寄稿

語りは重層的です。ある人のものがたりが語られるとき、記憶される経験が時を経て感じ方や考え方を変え、時にその人のものの見方を新たな視野へ、次の成長へと導いていきます。

 

嶋守 さやか しまもり さやか

桜花学園大学教育保育学部 教授

 

金城学院大学大学院文学研究科博士後期課程修了、社会学博士。著書に『孤独死の看取り』『虐待被害者という勿れ 虐待サバイバーという生き方』(新評論)などがある。2025年11月、研究テーマ「生ききるケアを生きる──よい訪問看護とは何か」を基に書き下ろした、『訪問看護ものがたり ご在宅の力』(同)を刊行。

 


 

看護とことば「ちょっと、やっぱり」

 

看護師たちの“語りの揺れ”

 

昨年の11月に『訪問看護師ものがたり ご在宅の力』を上梓しました。6人の訪問看護師へのインタビューをもとにしたこの書籍には、「人として生ききる」ことを最期まで諦めない人々に「沿う」ことで生まれた訪問看護師の語りが収録されています。社会学者として現象学的質的研究に取り組む私にとっては、一人の語り手によって語られる内容の順序や繰り返し、癖や言い淀みなどの“語りの揺れ”が、分析のための重要な手がかりとなります。それらを丁寧に追うことで、一人ひとりの看護師によって生きられる経験世界のかたちが見えてくるのです。

 

本稿では、そんなインタビューの中で、ある病棟の看護師が自身の看護についてどのように語ったのかを示したいと思います。その看護師をここではEさん(50歳代)と呼びましょう。彼女が過ごしてきた病棟での日常で何を目にし、どのように心に留め、自身の看護観に連動させていったのか。それを「ものがたり」、つまりEさんのナラティブ分析として描いていこうと思います。

 

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コミュニティケア冬号 特集2 1.総論②

持続可能な保健医療制度のために、看護の専門性とプライマリ・ヘルス・ケアの理念を体現する訪問看護ステーションの重要性について解説します。

 

喜多 悦子 きた えつこ

笹川保健財団 会長

 


 

ますます存在が重要になる
訪問看護ステーション

 

日本では、世界に類を見ない速度で超高齢化と少子化が同時に進行しています。そのような社会状況の中で、高齢者は明確な疾患がなくとも、加齢に伴う心身機能の低下により、日常生活において体調不良や将来への不安を抱えやすくなっています。

 

1961年に確立された国民皆保険制度は、「誰でも、いつでも、どこでも医療を受けられる」体制を実現し、日本の平均寿命の延伸と健康水準の向上に大きく寄与してきました。一方で、その利便性は、軽微な体調変化や不安に対しても医療機関を受診する行動を常態化させた側面を持っています。長寿社会を実現した半面、高齢化の進行と相まって医療費や介護・福祉関連経費は急増し、現役世代の負担や国家財政に深刻な影響を及ぼしています。政府はさまざまな対策を講じてきましたが、社会構造の変化はそれを上回る速度で進行し、増え続ける高齢者と社会的コストに、いかに対応するのかが問われています。

 

本稿では、今後ますます必要性と重要性が高まる訪問看護ステーションの開設1)に着目し、「日本財団在宅看護センターネットワーク」構築の経過2)を踏まえながら、近年の知見を基にその意義とあるべき姿を論じます。

 

訪問看護ステーションが担う

幅広い役割

 

病院中心の医療提供体制は、財政的にも人的にも限界に近づいています。少子化の進行により、医療・介護・福祉分野における人材確保が困難となる中、医療の重心を病院から地域・在宅へ移行させることは不可避となっています。

 

政府は地域包括ケアシステムを推進してきましたが、医療施設依存型の意識はいまだ根強く残っています。一方で、過疎化が進む地域では医療機関が存在していても、通院手段を持たない、あるいは経済的理由により受診が困難な高齢者が制度から取り残されつつあります。高度医療は病院が短期間担い、その後は速やかに在宅へ移行し、生活の場で継続的に医療と看護を提供する体制の構築が不可欠です。

 

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特別記事 島の人々の生活と健康を支える看護職 トカラ列島の群発地震レポート②

鹿児島大学病院看護部、鹿児島県看護協会、NPO法人メッセンジャーナースかごしまの活動等を通じて、離島へき地における看護の課題に取り組む筆者からの報告を2回にわたって紹介します。

 


田畑 千穂子 たばた ちほこ

NPO 法人メッセンジャーナースかごしま 代表
鹿児島県看護連盟 会長


 

今回は、十島村における看護師2人体制実現の経緯をはじめ、中之島で行った健康教室、口之島での人生会議、そして島民への自宅訪問の様子を通して、離島での看護職の活躍と住民との深いかかわりについて報告します。

 

十島村における看護師2人体制の実現

 

2016年、鹿児島大学地域防災教育センター主催の「第4回かごしま国際フォーラム」が開催されました。大会テーマは「島嶼・へき地のルーラルナーシングと災害看護」でした1)。カナダのサスカチュワン大学看護学講師Mary E. Andrews氏が「カナダのへき地における看護実践の課題」を講演し、その質疑応答で十島村の参加者から看護師配置人数について聞かれたAndrews氏は、「カナダでは、看護師の在宅訪問の移動はセスナ機で、看護師は2人体制」だと回答しました。

 

この「看護師2人体制」の情報を受けた十島村の村長は、すぐさま「十島でも看護師2人体制を導入する」と決断し、予算化が進められました。それから9年がたち、現在では5つの島で2人体制が実現しています。

 

この国際フォーラムの開催が十島の医療体制に影響を与えたことが成功体験となり、「看護研究活動は社会を変える」「一歩でも前へ動かす行動力が誰かの心を動かし、いつか山が動く」という信念が筆者の看護活動の「芯」となりました。

 

その後、県看護協会長であった筆者は、十島村の看護師確保のため、eナースセンターへの募集協力や県看護協会の広報誌への記事掲載などを続けました。

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市民とともに歩むナースたち(12)〈最終回〉

「People-Centered Care(PCC)」とは、市民が主体となり保健医療専門職とパートナーを組み、個人や地域社会における健康課題の改善に取り組むことです。本連載では聖路加国際大学のPCC 事業の中で経験した「個人や地域社会における健康課題の改善」を紹介します。

 

鈴木 貴子 すずき たかこ

聖路加国際大学PCC開発地域連携室
看護師・鍼灸師

 


「聖路加健康ナビスポット「るかなび」:健康相談」

その人の持つ力を信じて、できることをともに考える

 

 

看護師による健康相談

 

今回は、本誌2025年1・2月号で紹介した聖路加健康ナビスポット「るかなび」(以下:るかなび)の活動の1つ「健康相談」について詳しく説明します(次ページ囲み参照)。

 

●相談に訪れる人々の困り事
医療機関ではない、地域に開かれた場所のため、看護師に話をする気軽さもあるのでしょう。複数の身体的な困り事を抱えている人や、生活上の制限にストレスも相まって悩みが複雑化している人、医療機関で異常は指摘されないが不調が続き途方に暮れている人、病院での検査結果を一緒に見てほしい人、精神的な不安を話しに来る人、子どもとの接し方に悩む人など、来訪者は多種多様です。疾患も、がんや脳血管系、運動器系、不定愁訴など多岐にわたります。

 

医療現場では、患者への説明に時間をかけたのに、後日確認すると「実は理解していなかった」ということがよくあります。るかなびへ相談に訪れる人々も「食事に気をつけるには、具体的にどうすればよいのか」「医師の説明は受けたけど、結局どういう病気かよくわからない」「家で考えていたら、わからないことがたくさん出てきた」「主治医に聞いていいのかわからない」「先生も看護師さんも忙しそうだし、声をかけられない」と、病気の理解のみならず、病院で説明されたことを生活の中に落とし込めない、知りたいことを医療者にうまく聞けない、といった困り事で訪れます。

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POTTスキルで解決〜食事ケアの困りごと 看護で食べるよろこびを

 

 

誤嚥性肺炎や窒息のリスクが気になる食事ケア。
でも、嚥下障害と姿勢アセスメントの基本的な知識と技術があれば、利用者が安全に食べることを継続して支援できます。
筆者らが提唱するPOTT プログラムの基本スキルを基に、現場で遭遇する問題の原因やケアの方法・根拠を紹介します。

 

執筆

定松 ルリ子 さだまつ るりこ

株式会社ケアライフエナジー

訪問看護ステーションアスレ

摂食嚥下障害看護認定看護師

 


知りたいこと その

 

誤嚥性肺炎を繰り返す人のポジショニングは

どうすればいい?

 

ポジショニングによる

誤嚥性肺炎の予防

 

食べ物や唾液などが声帯を越えて気管内に流入することを誤嚥と言います。誤嚥性肺炎は誤嚥を繰り返すことで生じる肺炎で、誤嚥物による侵襲が多くなり、炎症に対する免疫力・抵抗力が低下することにより発症します。誤嚥性肺炎による日常生活や社会活動の制限は、精神的なストレスやQOLの低下にもつながってきます。

 

看護ケアにおける誤嚥性肺炎の再発予防は、嚥下訓練や口腔ケアだけでなく、生活援助の視点に立った多角的な対応が必要となります。食事のポジショニングはその一例で、以下のような予防効果が期待できます。

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