聖路加国際大学の「ピープル・センタード・ケア」
2025年1月号の月刊「看護」と「コミュニティケア」で、同時連載「市民とともに歩むナースたち」がスタートしました。この連載は、聖路加国際大学が推進する「ピープル・センタード・ケア」(People-Centered Care、以下PCC)の取り組みを紹介する新企画です。
PCCとは、市民(患者だけでなく地域住民)を主体とし、保健医療専門職とのパートナーシップをもとに健康課題の改善に取り組む考え方です。同大学では、このPCCに関連した多彩な事業を展開しています。
そのひとつが「聖路加健康ナビスポット:るかなび」(以下、るかなび)。地域住民が気軽に立ち寄り、体や病気に関する情報を得られる“健康情報スポット”です。壁一面の本棚には、医療や看護、心理学などの専門書から一般書まで豊富な本が並び、隣接するカフェでコーヒーを片手にゆっくり読むことができます。
また、看護師による「健康相談」では、健康に関する疑問や悩みについて、その解決策・対処法を一緒に探ってくれます。今回、何かと体調不良の多い私(編集部員K)は、この「健康相談」を体験するため、るかなびを訪れることにしました。
るかなびの「健康相談」を体験
私を迎えてくれたのは、看護師であり鍼灸師の資格も持つ鈴木貴子さん。生活を観るプロである看護師の視点に加えて、東洋医学の知識も活かし、訪れる人のさまざまな悩みに対応しています。健康相談はプライバシーが確保されたスペースで行われ、リラックスして話せる雰囲気です。
「看護師の鈴木です。今日はどうされましたか?」
受付票(相談票)を記入した後、鈴木さんの優しい声かけで相談が始まりました。私は、慢性的に肩こりや頭痛があり、最近は眠りが浅いことなどについて、率直に話しました。
「肩こりや頭痛がひどいときは市販の鎮痛剤を飲んだり、自分でストレッチしたりするのですが、なかなかよくならなくて……」
鈴木さんは日常生活について丁寧に質問しながら、食事の摂り方や睡眠前の習慣に改善の余地があることを教えてくれました。
「冷たいものや脂っこいものの摂りすぎに注意して、朝食は菓子パンではなく、ご飯やお味噌汁などに変えてみてはいかがでしょうか。また、寝る前のスマホ使用を控えるとよいですね。目の疲れが肩こりや頭痛の原因になっている可能性も考えられます」
さらに東洋医学の視点から、「気虚」というエネルギー不足の状態が疑われると指摘してくれました。改善のためには、栄養バランスを意識しつつ、無理のない運動や目のケアを取り入れるのが効果的とのこと。仕事で目を酷使するのが当たり前だったので、肩こりや頭痛に目が関係していると気づけたのは、まさに“目から鱗”でした。
話すことで心が軽く
約60分の健康相談を終えて、最も印象に残ったのは「話すことで心が軽くなった」という感覚です。普段、誰かにじっくりと話す機会が少ない体の悩みを親身に聞いてもらい、一緒に対処法を考えてくれる時間がとても心地よく感じました。
鈴木さんの対応からは、単なる生活指導ではなく、共に解決策を探る姿勢が伝わってきました。このような相談者に寄り添う丁寧なスタイルだからこそ、自分の体に関する新たな気づきが得られたのだと思います。
鈴木さんは、健康相談において「相手の語りを聴くこと」「相手を知るための質問」「その人の生き方・価値観を大事にしたうえでのアセスメント」を大切にしていると話します。これらのアプローチによって、相談者が自分の困りごとを整理・明確化でき、新たな発見につながるのだそうです。
るかなびで新しい自分に出会う
るかなびの健康相談には、一般的な相談に対応する「よろず健康相談」と、専門分野のスタッフによる予約制の「専門相談」があります。
「よろず健康相談」は1回30分程度で料金500円~、「専門相談」は1回60分程度で料金1,000円です(どちらも保険外診療)。今回担当してくれた鈴木さんと、がん看護専門看護師の中村めぐみさんが常駐看護師として対応しています。
利用者の相談内容は、原因のわからない不定愁訴や生活習慣病、精神的な悩み、介護ストレスやDVといった家族問題など、健康に関係することですが、多岐にわたります。その内容によって、聖路加国際大学の看護教員、各分野の専門看護師・認定看護師等も担当してくれるそうです。
他者にはなかなか話しづらい体の不調、あるいはちょっとした悩みを抱えているようなら、生活を観るプロである看護師と気軽に話せる「るかなび」を訪れてみてはいかがでしょうか。ひとりでは気づけなかった課題や対処法を発見でき、“新しい自分”に出会えるかもしれません。
■「聖路加健康ナビスポット:るかなび」
東京都中央区築地3-6
大村進・美恵子記念聖路加臨床学術センター1階
TEL:03-6226-6390
聖路加健康ナビスポット「るかなび」の健康相談:体験記
精神科訪問看護へようこそ
病棟から精神科訪問看護に飛び込んだこころさんが、看護大学で働くカワウソ先生との対話を通して在宅の精神科看護を学び、成長していく物語です。
川下 貴士 ●かわしも たかし
松蔭大学看護学部看護学科精神看護学 助教
第6回 100点満点じゃなくても
前回のあらすじ
こころさんは調子を崩して入院してしまったAさんになにができるか、悩みました。しかし、「心理教育」の一環としての服薬支援や治療同盟についてカピバラ先生から教わり、再び前を向きます!
こころ カワウソ先生、実はとってもうれしい報告があります!
カワウソ こころさん、すごく素敵な笑顔ですね。どうしましたか?
こころ それが……Aさんが退院してから、2週間ほどたっているのですが、状態が安定しているんです。
カワウソ それはよかったです! 状態が安定している、ということはお薬も継続的に飲めているのでしょうか?
こころ 実はAさん、入院したときに糖尿病であることがわかって、薬が増えたらしく……。その際に病棟の看護師さんから服薬支援を受けていたという話も聞いたのですが、薬を飲むことに関する考えは入院前とあまり変わらないように感じました。ただ、カピバラ先生から教わったこと*1を実践してみたら、今のところうまくいっているんです!
カワウソ ふむふむ。どんな説明をしたのか、ぜひ聞かせてください。①
POINT①
現実世界では、患者さんの個人情報を公にするのは厳禁ですよ!
行動変容をそっと促す ナッジを使ったアプローチ㉚
ナッジとは、人の心理特性に沿って望ましい行動へと促す設計のこと。ゲストスピーカー・医療職のタマゴたちとともに、看護・介護に役立つヒントを示します。
みんらぼカードの広告で
人生会議を周知する
竹林 正樹
たけばやし まさき
青森大学 客員教授/行動経済学研究者
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医療職のタマゴたちが交代でナッジを学びます。
金田 侑大さん
城戸 初音さん
難波 美羅さん
竹林 2024年11月号、12月号では、一般社団法人みんなの健康らぼ*1(以下:みんらぼ)の理事、坪谷透先生(総合内科専門医)をお招きし、どうすれば「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)」がうまく進められるかについて伺いました。
あらためて、坪谷先生のお話の中で、何が印象的でしたか?。
N.Focus 窒息リスク評価の標準化をめざして
窒息リスク評価の標準化をめざして
迫田 綾子 ● さこだ あやこ
日本赤十字広島看護大学 名誉教授
POTTプロジェクト代表
[略歴]
広島大学医学部附属看護学校卒業後、病院勤務を経て2021年広島大学大学院医学系研究科前期修了。日本赤十字広島看護大学基礎看護学、摂食嚥下障害看護認定看護師教育課程主任教員を兼務。
窒息のリスクを誰でも・どこでも・短時間で・包括的に評価できるものにすることを目標に考案された「窒息リスク評価表」。食事におけるポジショニングやケアのあり方を追求する筆者が、その開発経緯や具体的な利用法などを紹介します。
基礎から学ぶ! 事例でわかる! 訪問看護ステーションの事業承継(18)
経営者の高齢化等により注目されている事業承継。成功させるにはいくつかのポイントがあります。本連載では、事業承継とは何か、事業承継の流れ・留意点などの基礎知識を解説し、実際の支援事例を紹介します。
訪問看護ステーションの事業評価
デューデリジェンスの重要性
坪田 康佑
つぼた こうすけ
訪問看護ステーション事業承継検討委員会
一般社団法人医療振興会代表理事
看護師/国会議員政策担当秘書
訪問看護ステーションの
過去と未来を評価する
「デューデリジェンス」(Due Diligence)とは、経営状況や財務状況を調査して企業を適正に評価することであり、一般的に買い手側が売り手に対して、専門家を介し実施するものです。過去・現在の評価に加え、事業の将来展望の分析も行います。
過去・現在の評価は、主に「財務」「税務」「債務」「法務」「人事」の観点から行われ、事業承継後に発覚する可能性のある問題を事前に把握し、抱えるリスクを最小限に抑えます。例えば、過去の不正請求や未払いの残業代などが後日明らかになった場合、その責任と財務的負担は新しい経営者に移ることになります。そのため、デューデリジェンスでは過去から現在に至る事業運営の適正性を綿密に調査します。
一方、将来展望の分析は「事業戦略」「オペレーション」「知的財産」などの側面から多角的に実施され、事業承継後の成長可能性や発展性を評価します。ここでは事業の収益力、人材の融和と活性化、知的財産の活用などが重点的に検討されます。また、承継先の既存事業とのシナジー効果が期待できるかどうかも重要な検討事項となります。