【Book Selection】新刊書籍のご紹介
映画と、生きるということ(20)
(No.20)
虚構世界と現実世界
『バービー』
岩田 健太郎
神戸大学大学院医学研究科 教授/神戸大学医学部附属病院感染症内科 診療科長
感染症内科医。『ワクチンを学び直す』『抗HIV/エイズ薬の考え方、使い方、そして飲み方ver.3』など著書多数。趣味は、映画や落語の鑑賞、スポーツ観戦など。
着せ替え人形「バービー」の実写映画
2023年のヒット作。超面白かった。未見の方はぜひご覧いただきたい素晴らしい作品だ。バービー(Barbie)は言わずと知れた着せ替え人形である。私も娘に買ったことがあるけれども、本作を観るまではバービーを製造したマテル社のことも、バービーを考案したマテル社のルース・ハンドラーのことも何も知らなかった。しかし、それでも心配はない。本作はバービーや着せ替え人形の知識や思い出が皆無な人も、バービー大好きで遊びまくっていた人も、等しく楽しめる娯楽映画になっている。本作は非常に巧妙につくられた映画で、観客のバックグラウンドによって観方が異なる映画であるにもかかわらず、それぞれ異なる楽しみ方ができる重層構造をしているのだ。そこが作り手の巧みさだと私は思った。海原雄山的なうんちく満載の食マニアも、日本食は初めての外国人も、等しく満足させるような懐石料理と言えば伝わるだろうか……いや、伝わらない(笑)。
行動変容をそっと促す ナッジを使ったアプローチ㉟
ナッジとは、人の心理特性に沿って望ましい行動へと促す設計のこと。ゲストスピーカー・医療職のタマゴたちとともに、看護・介護に役立つヒントを示します。
㉟
「伝える」から「伝わる」へ
竹林 正樹
たけばやし まさき
青森大学 客員教授/行動経済学研究者
みおしん先生
ペインクリニック医/メディアアーティスト/
デジタルコンテンツマネジメント研究者
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医療職のタマゴたちが交代でナッジを学びます。
金田 侑大さん
城戸 初音さん
難波 美羅さん
竹林 今回も前回に引き続き、みおしんこと西村美緒先生にお越しいただきました。みおしん先生はペインクリニック医であり、線維筋痛症および慢性疲労症候群の患者でもある、医療従事者と患者のコミュニケーションの懸け橋となる稀有な先生です。みおしん先生も自身の痛みを伝えているのに、それがうまく伝わらず苦労された経験をお持ちです。そこで、今回は患者さんの視点で「『伝える』から『伝わる』へ」をテーマに考えていきます。
映画と、生きるということ(18)
(No.18)
その人を“何もできない人”に
してしまわないように
『長いお別れ』
宇梶 智子
医療法人社団 一心会初富保健病院 看護部長/認定看護管理者
20〜30代のころは、夜勤明けでもミニシアターをめぐって、世界中のバラエティ豊かな映画を楽しんでいた。
そのほかの趣味は、韓国の食・ポップミュージックをはじめ、さまざまな文化を知ること。
ストーリー
物語は東家の4人を中心に展開していきます。校長を務めた厳格な父・昇平(山崎努)と良妻賢母そのものの母・曜子(松原智恵子)は、東京の郊外で暮らしています。
夫婦には2人の娘がいます。カリフォルニアで学者の夫と反抗期の息子・崇と暮らす長女の麻里(竹内結子)、そして実家から自立したものの、仕事も恋愛も続かないことに悩む次女の芙美(蒼井優)です。ある日、昇平の70歳の誕生日を祝うために、曜子から「お父さんの誕生日に帰っていらっしゃい」と招集され、久しぶりに帰省した麻里と芙美。家族4人で食卓を囲んで会話をしていると、娘たちは、昇平が麻里を芙美と間違えたり、自分の誕生日という認識がなかったり、さらには、ささいなことで憤慨して大声を上げるなどの変化を目の当たりに。「まさか……」と動揺しているところ、母親から、父が認知症になったことを告げられます。このシーンを皮切りに、東家の7年間の様子が描かれていきます。
本作は、優しさとユーモアにあふれ、父が記憶をなくしても、これまでとは違った形で、より深い絆で結ばれていく家族の姿に心打たれる物語です。