N.Focus 縛られてはじめてわかった恐怖、怒り、屈辱感 身体拘束体験研修を受けて

縛られてはじめてわかった恐怖、怒り、屈辱感
身体拘束体験研修を受けて
平岩 千代子●ひらいわ ちよこ
最期まで身も心も縛られない暮らし・住まい研究会
社会福祉士
群馬県沼田市を拠点とする大誠会グループは、約25年にわたり身体拘束ゼロを実践しています。同グループでは、事務職や調理員を含む全職種全員が受講する、あえて不適切なケアを受け「縛られる患者」の立場に身を置く身体拘束体験研修に、私も参加しました。本稿では、身体拘束を体験する中で身体を通して知った恐怖、怒り、屈辱感を手がかりに、身体拘束がはらむ問題をあらためて考えます。
わたしの推し本(7)
第 7 回
『考える力をつける3つの道具
かんたんスッキリ問題解決!』
価格:1,540円(税込) 発行:ダイヤモンド社
今月の推し人
任 和子
京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系専攻
先端中核看護科学講座生活習慣病看護学分野 教授
片づけから始まった、頭の中の整理
私が『考える力をつける3つの道具』を知ったのは、当時高校生だった娘の部屋の片づけがきっかけでした。思春期の子どもの部屋には、本人なりに大切なものがあふれています。それを整理していくうちに、片づけとは物を減らすことではなく、「何を大切にしたいのか」を見えるようにする作業なのだと気づきました。もっとも、捨てるか残すかを一つひとつ自分で決めることは、当の娘には刺激が強すぎたようで、社会人になった今も折に触れて話題に上ります。
そのとき、手伝ってくださった整理収納の専門家の方が「頭の中の整理にもTOC★1の考え方が役立ちますよ」と教えてくださいました。TOCとは、物事がうまく進まないときに、全体の流れを妨げているものは何かを見つけ、全体最適を考えるための理論です。名前だけ聞くと難しそうに感じますが、本書には「4歳でもできる」と書かれていました。4歳の子どもでも、もやもやしたことを筋道立てて考え、自分なりの答に近づけるのだということが私にはとても衝撃的でした。
日々の小さな意思決定に使う
本書には3つの思考ツールが紹介されていますが、私がもっともよく使っているのが「もやもや解消」の考え方です。何かが引っかかるとき、すぐに結論を出さず、まず「本当は何を表現したいのか」と、目標を少し遠くに置いてみます。そして自分の考え、相手の考え、それぞれの背景にある前提を書き出し、「なぜならば」とつないでいきます。すると、対立して見えたものが少しずつほどけていきます。
この考え方は、大きな課題だけでなく、日々の小さな意思決定にも役立ちます。例えば実習で、学生が車いすを単独で押すことを認めるか、認めないか。患者安全を守りたいという思いと、学生に経験を積ませたいという思いは、どちらも大切です。そこで、何を避けたいのか、何を育てたいのか、その背景にある考えを言葉にしてみます。すると、単に「押す/押さない」を決めるのではなく、どのような条件や支援があれば安全に学べるかを考える糸口が見えてきます。
本書を読んで心に残っているのは、自分で論理的に考えて答を見つけ出すことこそが、人が学ぶ道だという考え方です。管理者は、時に答を求められる立場です。しかし、すぐに答を示すことがいつも最善の支援とは限りません。相手が自分で出した答に自分の言葉で納得できるよう伴走することもまた、管理者の大切な役割なのだと感じます。
この本を読むと、もやもやすることが少し怖くなくなります。対立も、失敗も、考えを深める手がかりになります。人や組織を支える立場だからこそ簡単には答の出ない問題に直面したとき、私は今もこの本を手に取ります。
★1 制約条件の理論(Theory of Constraints)
にん・かずこ◉看護学を専門とする研究者。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授を務め、日本看護協会副会長として、専門職能の発展、政策提言にも尽力している。
コミュニティケア夏号 特集1 各論
関係が何度も揺らぐ利用者とのかかわりの中で、看護師自身の利用者への見方や支援のあり方が少しずつ変わっていく経験を通して、訪問看護だからこそ担える役割について考えます。
平野 智子 ひらの さとこ
訪問看護ステーションコスモス 所長
「問題のある人」という見方を超えて「つながりを求め続ける人」として支えることに気づく
孤立を深めながらも、つながりを求める
1. 繰り返されてきた関係の断絶
Aさんは30歳代女性で、統合失調症の診断を受けています。過去に他の訪問看護ステーションを数回利用した後に当ステーションがかかわっていましたが、看護師が被害妄想の対象となって何度も担当変更となり、転居を機に訪問看護は終了していました。その後、精神症状の再燃による措置入院を経て、本人の希望により再び訪問看護を開始することになりました。
今回は、措置入院後としては2回目の依頼でした。入院により地域とのつながりが途切れた後、再び訪問看護へ連絡をしてくることが繰り返される中で、訪問看護がAさんにとって「戻ることのできる関係」の一つになっていたようにも感じられました。
Aさんはこれまで、就労や対人関係の構築に何度も挑戦し、その過程で傷つき、関係が破綻する経験を重ねてきました。そのたびに飲酒量は増加し、生活が乱れる傾向が見られ、状態が悪化すると被害的な言動が顕著となり、入院に至ることもありました。
コミュニティケア夏号 特集2 報告②
専門性の深化は、特定領域の知識や技術を磨くことにとどまりません。神経難病に特化することで独自の価値を築き、地域の支援体制の充実にもつなげてきた取り組みを紹介します。
西尾 まり子 にしお まりこ
地域ケアステーション八千代・訪問看護ステーション
管理者
在宅ケア認定看護師
神経難病に特化した訪問看護で
価値と役割を深め続ける
当グループは大阪府堺市・和泉市に2拠点を構え、堺市全域をはじめ和泉市、狭山市、高石市など近隣エリアへの訪問看護を行っています。開設11年目を迎えた現在、看護師約40名、理学療法士12名、作業療法士5名、言語聴覚士3名、看護補助者7名、介護支援専門員4名、事務員8名、総勢約80名の多職種チームが日々活動しています。スタッフ一人ひとりの尽力により、今では多くの神経難病療養者を地域で支えられるようになったと自負しています。
独自の役割と価値は
神経難病療養者を支えること
大阪府は全国で最も訪問看護ステーション数が多い都道府県です。堺市は人口約80万人の政令指定都市であり、訪問看護ステーション数は年々増加し約250カ所あります。その中で地域の実情を踏まえ、これからどのような役割を持つステーションに価値があり必要とされるのかを考えました。最初の目標として「これでいいのだ! の地域ケア」(本人・家族が「これでよかった」と思えることを正解とする考え方)を掲げましたが、ターゲットが広すぎて手応えを感じられませんでした。
そこで、専門的な強みを全面的に出し、独自のスタイルを構築することで、他のステーションとの差別化をはかることが必要だと考えました。そのために難病看護師である自身が理想とする「神経難病療養者を地域で支えることができるステーション」を目標とし、専門性を磨き地域連携を構築し独自のサービスを追求していく方向性としました。









