特別寄稿

特養あずみの里裁判では、利用者の飲食中の急変(その後死亡)に対し、食事介助に当たっていた准看護師が業務上過失致死に問われました。本誌ではこれまで、その事件の詳細や裁判の経過、全国からの支援などについて複数号で報告してきました(2018年11月号、2019年1月号、2019年6月号)。今回、控訴審での逆転無罪判決が確定したため、弁護士の木嶋日出夫さんから最終の報告をいただきます。

 

 

特養あずみの里裁判④

画期的な無罪判決

文:木嶋 日出夫

 

 

 

逆転無罪判決、確定

 

2020年7月28日、東京高裁第6刑事部(大熊一之裁判長)は、特養あずみの里業務上過失致死被告事件の控訴審判決で、第1審・長野地裁松本支部の有罪判決(罰金20万円)を破棄し、無罪判決を言い渡しました。検察は上告せず、無罪判決が確定しました。

 

2014年12月26日に不当な起訴を受けて以来、今日まで5年半を超える長きにわたり、「被告人」として苦汁をなめさせられてきた准看護師の山口けさえさんは、無罪判決確定後の記者会見で「お亡くなりになった方のご冥福を祈ります。無罪の判決が確定して本当によかったです。ほっとした気持ちです」と、その心境を率直に語りました。

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困難ケースを解決するスペシャリストの実践知

各分野のスペシャリストによる看護実践の過程から、困難事例への視点や日々の実践に役立つケア・コミュニケーションのポイント、スキルを学びます。

 


①緩和ケア

若年者のがんの苦痛と家族の怒りへの対応
グリーフケアは最初の出会いから始まる

今月のスペシャリスト:濱戸 真都里

 

 

「緩和ケア訪問看護ステーション架け橋」は、2009年に京都府京田辺市に開設し、今年で12年目となりました。在宅緩和ケアを中心に、神経難病・慢性疾患・認知症のある人、小児など、幅広い利用者に訪問看護を提供しています。2019年には20人の利用者の在宅看取りを行いました。看護師5人・ケアマネジャー2人の小規模事業所ですが、「機動力を活かした効率のよい丁寧な仕事」をモットーに活動しています。

 

抗がん剤治療の継続を拒否したAさんと
病院に見放されたと感じている母親

 

事例

Aさん / 28歳女性
直腸がん、卵巣転移、腹膜播種、消化管閉塞

 

Aさんは両親・兄2人の5人家族。直腸がん診断後、3年に及ぶ抗がん剤治療を受けていたが、徐々に治療の効果が得られなくなり、これ以上は苦痛を増大させる可能性が高いと考えられ、病院から退院をすすめられた。また、Aさん自身、「もうつらい」と治療の継続を拒否し、自宅に戻り愛猫・愛犬、家族とともに過ごすことを望んだ。しかし、母親は治療の継続を希望し、病院に見捨てられたと思い込み怒りをあらわにした。退院を拒み続けた母親を病院関係者が説得し、Aさんは退院した。

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地域ケアの今(60)

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

 

オンライン学術集会で感じたこと

文:上野まり

 

 

日本在宅ケア学会学術集会に参加

 

コロナ禍において、先日、初のオンライン学会に参加したので、今回はそれについて報告します。

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訪問看護ステーションの経営戦略(29)

訪問看護ステーションの管理者が地域のニーズを的確に捉えて健全

な経営を行い、その理念を実現するために行うべきことを、公認会

計士・税理士・看護師の資格を持つ筆者が解説します。

訪問看護ステーションの経営を
安定させるためのポイント

渡邉 尚之

 

 

「訪問看護ステーションの経営戦略」と題して執筆してきた本連載は、今回が最終回です。

 

最後のテーマは、「訪問看護ステーションの経営を安定させるためのポイント」です。法人の経営を安定させる効果的な取り組みや考え方について、6点を紹介します。

 

よいと思ったものは、ぜひ取り入れてみてください。

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PEOPLE 感染症医からの提言  新しい訪問看護の形を

感染症医として、メディア・著書などをとおしてCOVID-19の感染対策の状況分析・提言を行うとともに、COVID-19患者の治療に当たる岩田健太郎さんに、日本の対策・今後の見通しや、今、訪問看護師が考えるべきことについて伺います。

 

 

 

 

岩田 健太郎さん いわた けんたろう

神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野 教授

神戸大学医学部附属病院感染症内科 診療科長/教授

 

 

1997年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。沖縄県立中部病院、米国ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンターに勤務。2003年に中国に渡り、SARS流行時の北京でクリニック医師を務め、アフリカではエボラ出血熱の臨床を経験する。帰国後は、亀田総合病院で感染症科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。2008年より現職。日本感染症学会感染症専門医・指導医、米国感染症専門医など。著書多数。近著に「新型コロナウイルスの真実」(KKベストセラーズ)、「感染症は実在しない」(集英社インターナショナル)など。

 

 

日本の感染拡大防止策

 

—3〜5月に日本が行ったCOVID-19の感染拡大防止策について、どのように評価されますか?

 

日本では 、3月初めまでは、全国的に発生していた小規模なクラスターを追跡して患者の診断と治療に当たるとともに、濃厚接触者を検査するといった対策を行っていました。これは、いわば起きている現象を後ろから追いかけて捉えるという方法です。

 

しかし、3月下旬くらいからは、特に東京などで感染者が増えて、これまでの方法では追いつかなくなりました。そこで、4月7日に緊急事態宣言を発令してコミュニティに自粛を促しました。つまり、感染拡大に先回りして予防するという対策へと変換されたわけです。

 

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