困難ケースを解決するスペシャリストの実践知❸

各分野のスペシャリストによる看護実践の過程から、困難事例への視点や日々の実践に役立つケア・コミュニケーションのポイント、スキルを学びます。

 

❸緩和ケア

利用者・家族のありようと生き方を理解し

起きている現象にコミットする

 

今月のスペシャリスト:長尾 充子

 

 

病状を受け入れ、よりよい療養を願うAさんと

本人へのがん告知を避けようとする家族

 

事例:Aさん /80代女性

肝細胞がん(多発リンパ節転移、骨転移)

 

Aさんは元来健康で、夫と立ち上げた会社の経営に精力的に取り組んできた。夫が10年前に亡くなった後も、従業員である家族たちに会社の経営やさまざまな生活場面において指示を出していた。Aさんには次男と3人の娘がいる。長男は2歳のときに特発性血小板減少性紫斑病で亡くなっていた。現在、Aさんは三女と一緒に暮らしており、そのほかの子どもは独立して近隣に住んでいた。

 

Aさんは、年明けごろから疲れやすさを自覚するようになった。3月、体幹に皮疹が出現し近所の皮膚科を受診したところ帯状疱疹と診断された。処方薬を服用したが、腹部周囲のピリピリする疼痛は改善せずに日常生活を思うように過ごせなくなった。6月はじめに再び皮膚科を受診すると黄疸が見られたため、大学病院での検査をすすめられた。すぐに入院が決まり、25日のCT検査の結果、肝右葉前区域のほぼ全体に腫瘤があり、肝細胞がんによる門脈浸潤・リンパ節転移・骨転移も認められた。さらに30日、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)により中部胆菅狭窄が認められ、胆管ステント・膵管ステントが留置された。7月10日より、骨転移部分への放射線療法が開始された。

 

新型コロナウイルス感染予防のために面会が禁止されていたので、Aさんと家族は携帯電話で連絡をとっていた。家族は、Aさんに不安を与えたくなかったため、主治医に「母にはがんと言わずに、腫瘍やできものなどの言葉で遠回しに病状を伝えてほしい」と依頼した。主治医は家族の思いを尊重して、Aさんに病名をはっきりと告げなかった。

 

入院中の疼痛コントロールでは、アセトアミノフェン、トラムセット、オキシコンチンと順次薬剤が変更された。病状の悪化により下肢に浮腫が出現したが、アルブミンが投与され症状は改善した。そのころ家族は退院後の療養生活について話し合い、大家族で過ごしてきたAさんにとって病院での生活はストレスが大きいと判断し、在宅でAさんを支えることに決めた。それに当たり、体調の管理などを目的に、当ステーションによる毎日の訪問看護が導入された。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2020年12月号)