宮子あずさの気まぐれコラム❷

精神科病院の訪問看護室で働きながら、文筆活動を行う宮子あずささん。最近気になること、疑問に思うことなどを書きつづります

東京だから地域で暮らせる?

 

 

「患者さん」にして「利用者さん」

私の職場は精神科病院の訪問看護室。利用者さんは全員、当院外来に通院しています。外来では「患者さん」、訪問看護室では「利用者さん」。意識していないと、つい「患者さん」と言ってしまいます。

 

主な疾患は統合失調症で、50年以上の長期入院を経て退院した人もいます。病院の創立は1927年。ベッド数は約650床。退院促進への取り組みはかなり熱心だと感じます。

 

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だから面白い訪問看護管理

西宮市訪問看護センター(兵庫県西宮市)は3カ所のサテライト事業を展開するステーション。山﨑和代さんに、管理者としての日々の思い・考えを語っていただきます。

 

 

❶〈筆者が変わりました!〉

はじめまして!

 

山﨑 和代

社会福祉法人西宮市社会福祉事業団

訪問看護課 課長/訪問看護センター 管理者

認定看護管理者

 

 

当センターの概要

 

当センターは1992年に全国で最初に開設した訪問看護ステーションの1つで、「住み慣れた場所で最期まで過ごせる地域づくり」という理念を掲げて訪問看護を提供しています。開設した年は年間135人の利用者に2028件のサービス提供のみでしたが、2019年には1138人に4万829件訪問するようになりました。利用者は末期がん、神経難病、循環器疾患、精神疾患を持つ人が多く、スタッフは22〜72歳まで総勢77人、平均年齢は40代です。

 

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住民の“生きる”に伴走 進化を続ける地域ケアシステム「幸手モデル」

地域包括ケアシステムの先進事例として、全国から注目されている「幸手モデル」。地域住民とともにこのモデルをつくった筆者の医師としての歩みを振り返り、幸手モデルの本質に迫ります。

 

❶〈新連載〉

消せない失敗と

解決できない問題

 

中野 智紀

北葛北部医師会在宅医療連携拠点菜のはな 室長

東埼玉総合病院地域糖尿病センター センター長

 

 

 

ある白血病患者との苦しい記憶

 

ある日、急性リンパ性白血病を発症した40代の男性(以下:Aさん)が入院してきて、私が担当することとなりました。当時、一般的に急性リンパ性白血病の治療は難しく、その病名を聞いただけで研修医だった私は尻込みをしました。専門医ではなかった私は、血液専門医の指導を受けながら治療を始めることとなったのです。

 

白血病の治癒のためには、完全に白血病細胞を根絶させること(Total cell kill)が必須とされています。強力な抗がん剤を複数組み合わせて用いるため、必ず骨髄抑制が起こります。骨髄内の白血病細胞に対して抗がん剤を用いて破壊し、白血病細胞より早く回復してくる正常細胞が立ち上がってきたら、ただちに次の化学療法を開始します。これらを繰り返すことで、骨髄内の白血病細胞を段階的に減らして寛解をめざしていくのが白血病における化学療法の基本的な考え方です。したがって、化学療法のクール終了後の感染症をはじめとする合併症の管理は極めて重要です。なぜなら、化学療法後に合併症が発症すると次の治療が遅れ、せっかく破壊した白血病細胞が再び増え始めてしまうからです。

 

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地域ケアの今(63)

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

 

 

「認知症」になることに備えて

文:鳥海房枝

 

厚生労働省は2018年11月に自らの人生の最終段階を周辺の人々とあらかじめ話し合っておく重要性を普及・啓発する目的で、アドバンス・ケア・プランニング(以下:ACP)の愛称を「人生会議」としました。その1年後の同月にこの言葉と考え方を広めるために、結果的には評判の悪かったポスターも作成しました。

 

このころには、介護保険での看取り介護加算の算定もあり、特別養護老人ホームなどの高齢者ケア施設では施設内看取りが珍しくなくなりました。さらに現在では終末期ケアに、ACPの考え方は必要不可欠になっています。すなわち「逝く本人の意思に沿った看取り」です。日本は今後、超高齢化社会から多死社会に突入します。ここで社会的に見た「多死社会」は傍らに置き、自らの生き方(逝き方)を周辺の人々と話し合い、意思表明しておく重要性が言われる

ようなった理由を考えてみます。

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困難ケースを解決するスペシャリストの実践知❸

各分野のスペシャリストによる看護実践の過程から、困難事例への視点や日々の実践に役立つケア・コミュニケーションのポイント、スキルを学びます。

 

❸緩和ケア

利用者・家族のありようと生き方を理解し

起きている現象にコミットする

 

今月のスペシャリスト:長尾 充子

 

 

病状を受け入れ、よりよい療養を願うAさんと

本人へのがん告知を避けようとする家族

 

事例:Aさん /80代女性

肝細胞がん(多発リンパ節転移、骨転移)

 

Aさんは元来健康で、夫と立ち上げた会社の経営に精力的に取り組んできた。夫が10年前に亡くなった後も、従業員である家族たちに会社の経営やさまざまな生活場面において指示を出していた。Aさんには次男と3人の娘がいる。長男は2歳のときに特発性血小板減少性紫斑病で亡くなっていた。現在、Aさんは三女と一緒に暮らしており、そのほかの子どもは独立して近隣に住んでいた。

 

Aさんは、年明けごろから疲れやすさを自覚するようになった。3月、体幹に皮疹が出現し近所の皮膚科を受診したところ帯状疱疹と診断された。処方薬を服用したが、腹部周囲のピリピリする疼痛は改善せずに日常生活を思うように過ごせなくなった。6月はじめに再び皮膚科を受診すると黄疸が見られたため、大学病院での検査をすすめられた。すぐに入院が決まり、25日のCT検査の結果、肝右葉前区域のほぼ全体に腫瘤があり、肝細胞がんによる門脈浸潤・リンパ節転移・骨転移も認められた。さらに30日、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)により中部胆菅狭窄が認められ、胆管ステント・膵管ステントが留置された。7月10日より、骨転移部分への放射線療法が開始された。

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