行動変容をそっと促す ナッジを使ったアプローチ③

ナッジとは、人の心理特性に沿って望ましい行動をしたくなるように促す設計のこと。この連載では、3人の医療職をめざす学生がナッジを学ぶ姿を通して、看護・介護に役立つヒントを示します。

 

 

どんな認知バイアスがあるの?

 

竹林 正樹

たけばやし まさき

青森県立保健大学 博士/行動経済学研究者

 

 

疲れると認知バイアスの制御が難しい

 

竹林 前号では、認知バイアスに沿って禁煙を促すアプローチを紹介しました。脳には「直感」と「理性」の2つのシステムがあり、直感は象のように本能的で力が強く、一定の癖(認知バイアス)が生じやすいです。一方、理性は認知バイアスを制御する役割があるものの、疲れるとあまり機能しなくなります。冒頭の4コマ漫画で城戸さんがケーキに手を伸ばしたのは、数字の暗記に頭が疲れ、理性がうまく機能しなくなったからといえます1)。頭が疲れると、直感的に甘いものが食べたくなります2)。

 

城戸 栄養の大切さを伝えるとき、あまり頭を使わせる内容にすると、相手は帰りにケーキを食べたくなるかもしれないのですね。

 

 

知っておきたい認知バイアス

 

竹林 認知バイアスを考慮せずに情報提供をすると、こちらの思いとは裏腹に、相手は望ましくない行動をすることがあります。例えば、図1は日本の子宮頸がん検診受診率の低さを強調した広報の例です。これを見た人は「皆が受けるようになるまで待とう」という心理(同調バイアス)になりやすいです。

 

このような事態を防ぐためにも、知っておくと便利な10の認知バイアスを紹介します(図2)。私たちは、検診を受けない人を「健康の大切さをわかっていない」と単純化して考えがちです。しかし、背景には、認知バイアスがかかわっていることが多いのです。例えば、「初頭バイアス」が強いと昔の印象を引きずりやすく、「同調バイアス」や「現在バイアス」が強いと、他人の行動や目先の誘惑に影響されやすくなります。また、「損失回避バイアス」や「現状維持バイアス」が強いと、ほかの用事をやめてまで行動を変えるのが難しく、「楽観性バイアス」や「正常性バイアス」「投影バイアス」が強いと“今まで問題がなかったのだから、これからも大丈夫”と気持ちが大きくなります。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2022年6月号)