アンガーマネジメント(8)

怒りの感情と上手に付き合う手法“アンガーマネジメント”を看護職が医療・介護現場で生かすための、基礎知識と看護実践への活用のポイントを解説します。

 

 

権利・欲求・義務を区分して適切な対応を考える

光前 麻由美

 

 

今回は、これまで紹介してきたアンガーマネジメントのテクニックを看護実践の中で応用する方法について、訪問看護計画書に予定されていない頼みごとが増えた利用者への対応のケースを基に考えてみます。なお、事例はあくまでもアンガーマネジメントの観点から考えることを目的に状況設定しており、実際の在宅ケアの場面とは異なる部分がある可能性があります。ご了承ください。

 

先月号(「コミュニティケア」9月号)までに、私たちは「こうするべき(はず)」という理想と現実との間にギャップがあるときに怒りを感じることを説明しました。そして、その出来事は自分にとって許容できる範囲のものか、許容できない範囲のものかを三重丸による“「べき」の境界線”によって考えるテクニックを紹介しました。許容できる範囲にあることは自分にとって怒らなくてよい、こだわらなくてもよいことです。では、許容できない範囲のことに対してはどう対応すればよいのでしょうか。優先度や具体策を考えてみましょう。

 

依存的になった利用者Aさん

 

Aさんは80代の男性。妻と死別し、1人暮らしです。高血圧で内服治療をしています。以前は自転車で買い物に行くなど元気に生活していましたが、あるとき外出先で転倒し、左大腿骨頸部を骨折して手術を受けました。術後の経過は良好で、杖は必要なものの自分で歩行できるようになりましたが、正座できなくなったため、座卓からテーブルと椅子を利用する生活になりました。

 

Aさんには結婚して別世帯で暮らす娘が2人おり、隣の市に住む長女は時々Aさんの様子を見に訪れますが、仕事をしており頻繁には来られません。長女は高齢の父を心配し、退院後、一緒に住むことも提案しましたが、Aさんは「まだ娘に迷惑をかけたくない。もう少し住み慣れた自分の家にいたい」と希望しました。そこでケアマネジャーに相談し、訪問看護を導入することとなりました。

 

訪問看護は週1回、1回当たり30分で、訪問看護師は服薬の確認と入浴介助を行います。ある日、訪問看護師のBさんは、入浴介助後、Aさんに水分補給として冷蔵庫にあった麦茶を飲んでもらいました。飲み終わった後にコップを片づけようとしたところ、Aさんに「流しにあるほかのコップも洗ってほしい」と言われました。Bさんの働く訪問看護ステーションでは、約束事として、訪問時に使用した物は片づけますが、それ以外の物には触らないことになっています。ところが、それを断ろうとするとAさんの表情が険しくなりました。

 

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※これまでの「編集部オススメBOOKs」はコチラ

 

アンガーマネジメント(6)

怒りの感情と上手に付き合う手法“アンガーマネジメント”を看護職が医療・介護現場で生かすための、基礎知識と看護実践への活用のポイントを解説します。

 

 

 

思考のコントロールと“3つの努力”
光前 麻由美

 

 

 

許容範囲を拡大・明確化する

 

先月号(「コミュニティケア」2019年8月号)では、三重丸(図1)を用いて“「べき」の境界線”について考えました。

アンガーマネジメントは怒りで後悔しないことをめざします。自分が何は許せて、何は許せないのかを三重丸に沿って考え、怒るべきことと怒らないことを区別できるようになったら、さらに次の3つの努力をしてみましょう。
❶ ②を広げる
❷ ②と③の境界線を安定させる
❸ ②と③の境界線を他人に見せる

 

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訪問看護ステーションの経営戦略(19)

訪問看護ステーションの管理者が地域のニーズを的確に捉えて健全

な経営を行い、その理念を実現するために行うべきことを、公認会

計士・税理士・看護師の資格を持つ筆者が解説します。

人件費率から
目標売上高を検討しよう

渡邉 尚之

 

 

訪問看護の費用の大半は人件費

 

厚生労働省によると、訪問看護ステーションの収入に対する給与費(給与・賞与・法定福利費等の合計、以下:人件費)の割合は73.1〜83.8%です(表1)1)。人件費率(%)は「人件費/売上高×100」の式で算出します。

 

訪問看護ステーションに限らず、経営では事業存続のために利益を確保することが大切です。利益(黒字)とは訪問看護収入等の収益から人件費等の費用を差し引いた結果がプラスの状態です(収益-費用>0)。逆に損失(赤字)とは、この結果がマイナスの状態です(収益-費用<0)。

 

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