困難ケースを解決するスペシャリストの実践知

各分野のスペシャリストによる看護実践の過程から、困難事例への視点や日々の実践に役立つケア・コミュニケーションのポイント、スキルを学びます。

 


①緩和ケア

若年者のがんの苦痛と家族の怒りへの対応
グリーフケアは最初の出会いから始まる

今月のスペシャリスト:濱戸 真都里

 

 

「緩和ケア訪問看護ステーション架け橋」は、2009年に京都府京田辺市に開設し、今年で12年目となりました。在宅緩和ケアを中心に、神経難病・慢性疾患・認知症のある人、小児など、幅広い利用者に訪問看護を提供しています。2019年には20人の利用者の在宅看取りを行いました。看護師5人・ケアマネジャー2人の小規模事業所ですが、「機動力を活かした効率のよい丁寧な仕事」をモットーに活動しています。

 

抗がん剤治療の継続を拒否したAさんと
病院に見放されたと感じている母親

 

事例

Aさん / 28歳女性
直腸がん、卵巣転移、腹膜播種、消化管閉塞

 

Aさんは両親・兄2人の5人家族。直腸がん診断後、3年に及ぶ抗がん剤治療を受けていたが、徐々に治療の効果が得られなくなり、これ以上は苦痛を増大させる可能性が高いと考えられ、病院から退院をすすめられた。また、Aさん自身、「もうつらい」と治療の継続を拒否し、自宅に戻り愛猫・愛犬、家族とともに過ごすことを望んだ。しかし、母親は治療の継続を希望し、病院に見捨てられたと思い込み怒りをあらわにした。退院を拒み続けた母親を病院関係者が説得し、Aさんは退院した。

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地域ケアの今(60)

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

 

オンライン学術集会で感じたこと

文:上野まり

 

 

日本在宅ケア学会学術集会に参加

 

コロナ禍において、先日、初のオンライン学会に参加したので、今回はそれについて報告します。

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訪問看護ステーションの経営戦略(29)

訪問看護ステーションの管理者が地域のニーズを的確に捉えて健全

な経営を行い、その理念を実現するために行うべきことを、公認会

計士・税理士・看護師の資格を持つ筆者が解説します。

訪問看護ステーションの経営を
安定させるためのポイント

渡邉 尚之

 

 

「訪問看護ステーションの経営戦略」と題して執筆してきた本連載は、今回が最終回です。

 

最後のテーマは、「訪問看護ステーションの経営を安定させるためのポイント」です。法人の経営を安定させる効果的な取り組みや考え方について、6点を紹介します。

 

よいと思ったものは、ぜひ取り入れてみてください。

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【Book Selection】今月のテーマ: がん看護に携わるあなたへオススメの本

当社おすすめ書籍を、新刊・既刊・古典織り交ぜてご紹介!!

がん看護に携わる皆さんに是非読んでいただきたい、当社がん看護関連書籍のほんの一部をご紹介します。

 

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SPECIAL BOOK GUIDE
「聞こえにくい」をほっとかない
Check your hearing!
Nursing Todayブックレット・04刊行!

2025年の高齢化率は30%に達すると予測されていますが、それは加齢性難聴の高齢者数の増加も意味します。「聞こえのしくみ」から、「加齢性難聴の予防」「補聴器を用いた聴覚トレーニング」「聞こえにくさを抱える方とコミュニケーションをとる際の工夫」までを解説する本書を、在宅看護・老年看護の教育・研究に携わる梨木恵実子さんにお読みいただきました。

 

書評『「聞こえにくい」をほっとかない』

 

群馬大学大学院保健学研究科看護学講座助教

老人看護専門看護師

梨木恵実子

 

私たち看護師は、どのように看護計画を立案し、ケアを行っているでしょうか。症状を聞く、薬について説明する、トイレ誘導時に声をかける……ごく自然にコミュニケーションをとりながら、情報収集やケアを実施しています。しかしそれは、相手に「聞こえの力」があることが前提です。聞こえに問題がある場合、説明やケアの場面で苦慮した経験のある看護師も少なくないと思います。

 

本書を読んで強く感じたのは、“私は相手の「聞こえの力」を維持する・高める関わりをしてきただろうか!? ”ということでした。

 

筆者は、訪問看護師としても活動を続けており、難聴の高齢者に出会うことも多く、声量やスピードなどを意識して話しています。しかし、その高齢者は、看護師がいない時間はどのように過ごしているのでしょう。外まで聞こえる大きな音でテレビを観ていたり、「電話の声は聞き取れない」と電話に出ることをあきらめていたり、「耳が聞こえにくいからと詳しく説明してもらえない」と怒りや悔しさを感じていたりするかもしれません。

 

看護師の役割は、日本看護協会が表明する看護の将来ビジョンのとおり、「いのち・暮らし・尊厳をまもり支えること」です。聞こえにくさを抱える人の生活全体を想像すれば、その時々の会話の工夫以外の支援も重要なことがわかります。

 

では、看護師に何ができるのでしょうか。まずは難聴について正しく理解することだと思います。本書では、難聴の要因や治療、補聴器を使ったトレーニング方法、認知症との関連などが、わかりやすく紹介されています。「聞こえにくさ」を加齢のせいだけにしない、可逆性への光を感じました。最も衝撃的だったのは、「難聴状態が続いた脳には、静けさの世界から音のある世界に慣れるまでの時間が必要」という事実です。補聴器が価値あるものになるかどうかは、支援者の関わり方次第です。その支援プロセスも知ることができます。看護師には、ケアを通して本人の聞こえにくさに気づける強みがあります。その変化を捉え、地域にいる医師などの難聴の専門家に繋ぐ・繋ぎ続ける方法も、本書は教えてくれます。

 

今後、聞こえにくさを抱える人への看護は確実に増えていきます。聞こえにくさはQOLに影響し、認知症の発症リスクでもあるため、“ほっとかないで”早期から介入することが重要です。本書をひもとき、看護師として「明日からできる!」ことを増やしていきましょう。

 

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