怒りの感情と上手に付き合う手法“アンガーマネジメント”を看護職が医療・介護現場で生かすための、基礎知識と看護実践への活用のポイントを解説します。
権利・欲求・義務を区分して適切な対応を考える
光前 麻由美
今回は、これまで紹介してきたアンガーマネジメントのテクニックを看護実践の中で応用する方法について、訪問看護計画書に予定されていない頼みごとが増えた利用者への対応のケースを基に考えてみます。なお、事例はあくまでもアンガーマネジメントの観点から考えることを目的に状況設定しており、実際の在宅ケアの場面とは異なる部分がある可能性があります。ご了承ください。
先月号(「コミュニティケア」9月号)までに、私たちは「こうするべき(はず)」という理想と現実との間にギャップがあるときに怒りを感じることを説明しました。そして、その出来事は自分にとって許容できる範囲のものか、許容できない範囲のものかを三重丸による“「べき」の境界線”によって考えるテクニックを紹介しました。許容できる範囲にあることは自分にとって怒らなくてよい、こだわらなくてもよいことです。では、許容できない範囲のことに対してはどう対応すればよいのでしょうか。優先度や具体策を考えてみましょう。
依存的になった利用者Aさん
Aさんは80代の男性。妻と死別し、1人暮らしです。高血圧で内服治療をしています。以前は自転車で買い物に行くなど元気に生活していましたが、あるとき外出先で転倒し、左大腿骨頸部を骨折して手術を受けました。術後の経過は良好で、杖は必要なものの自分で歩行できるようになりましたが、正座できなくなったため、座卓からテーブルと椅子を利用する生活になりました。
Aさんには結婚して別世帯で暮らす娘が2人おり、隣の市に住む長女は時々Aさんの様子を見に訪れますが、仕事をしており頻繁には来られません。長女は高齢の父を心配し、退院後、一緒に住むことも提案しましたが、Aさんは「まだ娘に迷惑をかけたくない。もう少し住み慣れた自分の家にいたい」と希望しました。そこでケアマネジャーに相談し、訪問看護を導入することとなりました。
訪問看護は週1回、1回当たり30分で、訪問看護師は服薬の確認と入浴介助を行います。ある日、訪問看護師のBさんは、入浴介助後、Aさんに水分補給として冷蔵庫にあった麦茶を飲んでもらいました。飲み終わった後にコップを片づけようとしたところ、Aさんに「流しにあるほかのコップも洗ってほしい」と言われました。Bさんの働く訪問看護ステーションでは、約束事として、訪問時に使用した物は片づけますが、それ以外の物には触らないことになっています。ところが、それを断ろうとするとAさんの表情が険しくなりました。
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