市民とともに歩むナースたち(10)

「People-Centered Care(PCC)」とは、市民が主体となり保健医療専門職とパートナーを組み、個人や地域社会における健康課題の改善に取り組むことです。本連載では聖路加国際大学のPCC 事業の中で経験した「個人や地域社会における健康課題の改善」を紹介します。

 

射場 典子 いば のりこ

聖路加国際大学

PCC開発・地域連携センター

看護情報学 准教授

 


「つながる暮らしの談話室:佃の渡しサロン」

地域の高齢者が自分らしく生きる力を育むナラティブ・コミュニティ

 

「るかなび」で蒔かれた種

「佃の渡しサロン」(以下:サロン)は、本連載第1回・第2回(2025年1・2月号)で紹介した「聖路加健康ナビスポット:るかなび」で活動していた7名のメンバー(市民ボランティア、看護師・保健師、歯科衛生士、司書)が中心となって立ち上げた地域サロンです。同じ中央区内ではありますが、大学の外で活動しています。

 

「るかなび」が始まったとき、一緒に活動して
いた市民は地元の人ばかりではありませんでした。ボランティアとして活動するために、遠方から通われる人も多かったようです。私たちは、そういった人たちが、一緒に活動する中で主体的に健康生活を築いていくためのヘルスリテラシーを身につけ、自分たちの持ち味を生かしてピープルセンタードケア(以下:PCC)の担い手として、いつか地元や新たな場へと巣立ち、PCCが広がっていってほしいと願っていたのです。それが実現したのはPCCが提唱され、「るかなび」が始まってから約10年後の2015年のことでした。

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実践に役立つ訪問看護の注目論文(11)

〈新連載〉

 

第 11 回

徘徊(ひとり歩き)の人の安全な外出について

山川 みやえ・繁信 和恵・関口 亮子

 

今月の注目論文

道路網の構造が認知症に関連する行方不明事案に与える影響:

空間的バッファ解析

Puthusseryppady, V., Manley, E., Lowry, E., et al. : Impact of road network structure on dementia-related missing incidents: A spatial buffer approach, Scientific Reports, 10, Article 18574, 2020.

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行動変容をそっと促す ナッジを使ったアプローチ(37)

ナッジとは、人の心理特性に沿って望ましい行動へと促す設計のこと。ゲストスピーカー・医療職のタマゴたちとともに、看護・介護に役立つヒントを示します。

 

 

社会的処方で人生を豊かにするには

 

竹林 正樹

たけばやし まさき

青森大学 客員教授/行動経済学研究者

 

三宅 琢

みやけ たく

株式会社Studio Gift Hands 代表

眼科医・産業医/博士(医学)

 

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医療職のタマゴたちが交代でナッジを学びます。

金田 侑大さん

城戸 初音さん

難波 美羅さん

 

 

竹林 今回のゲストスピーカーには、眼科専門医で、LINEヤフー株式会社などの産業医や「社会医」としても活動されている三宅琢先生をお招きしました。三宅先生はStudio Gift Handsという会社を立ち上げ、人と組織のwell-being向上を目的とした教育支援事業も精力的に展開されています。私と三宅先生は一緒に講演を行うこともあり、また、眼科医である私の妻が三宅先生からアドバイスを受けて産業医になった経緯などもあって、公私ともにお世話になっています。

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POTTスキルで解決〜食事ケアの困りごと 看護で食べるよろこびを

 

 

誤嚥性肺炎や窒息のリスクが気になる食事ケア。
でも、嚥下障害と姿勢アセスメントの基本的な知識と技術があれば、利用者が安全に食べることを継続して支援できます。
筆者らが提唱するPOTT プログラムの基本スキルを基に、現場で遭遇する問題の原因やケアの方法・根拠を紹介します。

 

執筆

迫田 綾子 さこだ あやこ

日本赤十字看護大学名誉教授

POTT プロジェクト代表

 


知りたいこと その❺

 

ベッドからずり落ちながら食べている人をよく見かけます。 ポジショニングはどうすればいいですか?

 

 

ある日、夕食時に利用者Aさんの部屋にうかがうと、Aさんはベッド上に横たわり、上体を左に傾けて柵を握っていました。右側マヒのため両手が使えず全介助の状態で、健側の左側から食事介助していると、Aさんが「食べる気にならん……」と一言。そこで筆者は、この場でできるポジショニングを考えました。足元にあった掛布団を丸く畳んで左肘下に置き、肩甲骨の下へ枕を入れてみると、Aさんはベッド柵から手を離し真っすぐ前を向いて自分で食事をし始め、「食べられるねー」とうれしそうに言ってくれました。

 

訪問看護の現場では、ベッド柵を握って姿勢のバランスを取っている利用者をよく見かけると思いますが、この状態では食欲や自力摂取に悪い影響を及ぼすことが少なくありません。そこで今回は、POTTプログラムにおけるベッド上の基本スキル*1を紹介します1-3)。

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市民とともに歩むナースたち(8)

「People-Centered Care(PCC)」とは、市民が主体となり保健医療専門職とパートナーを組み、個人や地域社会における健康課題の改善に取り組むことです。本連載では聖路加国際大学のPCC 事業の中で経験した「個人や地域社会における健康課題の改善」を紹介します。

 

亀井 智子  かめい ともこ

聖路加国際大学看護学部 学部長

大学院看護学研究科 教授

 


多世代交流型デイプログラム 聖路加 和みの会

一人ひとりが輝くための世代間交流支援

 

わが国は世界でも類を見ないスピードで少子超高齢化が進展し、現在では総人口の約30%を65歳以上の高齢者が占めています1)。こうした社会の変化は、医療・看護のあり方を根本から見直す必要性を私たちに突きつけています。特に看護においては、病気等の治療だけでなく、高齢者が住み慣れた地域で、自らの生活を意味あるものと感じ、社会の一員として役割を持ち続けられるよう支える視点が求められます。

 

これまでの高齢者ケアでは、加齢に伴う心身・認知的な機能低下に焦点が当てられ、「支える側(若い世代・専門職)」「支えられる側(高齢者)」という一方向的な関係性が前提とされてきました。しかし、高齢者の語りに耳を傾けると、彼らは単に援助を受ける対象ではなく、人生経験の豊かさや深い知恵、社会に貢献したいという意欲を持つ主体的な存在であることがわかります。

 

そこで本稿では、筆者らがこれまで老年看護の実践・教育・研究を通じて重視してきた2つの概念である「互恵性」「世代継承性」を中心に、高齢者と子どもがともに輝く支援の実際を説明します。

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