市民とともに歩むナースたち(5)

「People-Centered Care(PCC)」とは、市民が主体となり保健医療専門職とパートナーを組み、個人や地域社会における健康課題の改善に取り組むことです。本連載では聖路加国際大学のPCC 事業の中で経験した「個人や地域社会における健康課題の改善」を紹介します。

 

田中 加苗 ● たなか かなえ

聖路加国際大学大学院看護学研究科 助教

 

小野 若菜子 ● おの わかなこ

東京都立大学健康福祉学部看護学科 教授

 

中村 めぐみ ● なかむら めぐみ

聖路加国際大学PCC開発・地域連携室 マネジャー

 


まちのグリーフカフェ「しん・呼吸」

市民活動団体や市民サポーターとの協働

 

 

まちのグリーフカフェをつくる

 

グリーフとは、「喪失によって生じる深い悲しみや苦悩」であり、悲嘆とも言います。そして、グリーフとして現れるさまざまな感情や行動を正常なものとして受け止め、その気持ちを察し、寄り添う姿勢に基づいた支援がグリーフケアです。筆者らは、喪失の中でも死別に着目し、“大切な人を亡くされた経験を語りあう会:まちのグリーフカフェ「しん・呼吸」”(以下:「しん・呼吸」)を市民活動団体や市民サポーターと協力して開催しています。

 

最初に、「しん・呼吸」の始まり、協働のプロセスをご説明します。

 

看護職と市民、それぞれの思い

 

高齢多死社会が進展する中、グリーフを支える場や機会がより必要とされています。近年、訪問看護ステーションや病院、診療所では、看取り後の家族に対して電話や訪問によるサポートを行ったり、家族同士が語り合う会、メモリアルの会などを開催したりするようになってきました。

 

しかし、医療職がグリーフケアを担うことは主業務との兼ね合いから難しい面もあり、また、家族の中には病院に出向くことが心理的負担になる人もいます。

 

そこで筆者らは、死別に直面した市民それぞれがセルフケアの力を高め、互いに思いやりをもって支え合う、地域でのグリーフケアの可能性に注目しました。

 

そんな中、「グリーフケアに取り組みたい」という思いから、対人援助職(医療・福祉・介護)に向けて、研修やセミナー、ワークショップなどさまざまな活動をしている一般社団法人セルフケア・ネットワーク(以下:SCN)のメンバーと出会いました。SCNメンバーは、地域でグリーフカフェを実施したいが、参加する市民がどれくらいいるのか、自分たちだけで開催ができるのか、という不安を抱えていました。

 

そこで筆者らが専門職として、ときには一市民として協働することとなり、さらに、自宅で病気の妻を看取った男性が市民サポーターとして加わる形で、2022年4月より「しん・呼吸」がスタートしました。この名称には、喪失のつらさから、深い呼吸(深・呼吸)すら忘れているかもしれない人々に、新鮮な空気を吸って(新・呼吸)、少しでも気持ちをリフレッシュ(心・呼吸)してほしい、という願いを込めました。

 

「しん・呼吸」の活動

 

「しん・呼吸」は、地域の交流スペース等を利用して、月に1回のペースで開催しています。参加者の数は1〜7人程度、年齢・性別はさまざまですが、50・60歳代の女性が多く、繰り返し参加する人もいます。

 

開催内容は、まず自己紹介をした後、安心・安全な場を守るため参加者間のルールを共有します。具体的には、「自分が話したいことだけ話せばよい」「ほかの人の話は遮らず最後まで聴く」「自分と他者を比較して考え方や感じ方のよしあしを決めない」「語られた内容は外部に持ち出さない」などです。

 

次に、看護職によるグリーフに関するミニレクチャーを行った後、市民同士の語り合いの時間を持ちます。参加者は一人ずつ、それぞれが今日話したいと思っていることを自由に話します。話しながら故人との時間や死別後の経験を思い出して涙したり、参加者同士で質問や感想を交換したりすることもあります。


続きは本誌で(コミュニティケア2025年5月号)