今年度の看護白書は2011年3月11日に発生した東日本大震災における、日本看護協会を始めとする各団体の支援活動に焦点を当て、まとめました。今回の経験から得られた課題を基に、今後の災害支援活動にどう取り組むべきなのか、示唆に富む内容になっています。
●総論の主な内容
「東日本大震災の特徴」について、室崎益輝氏(関西学院大学総合政策学部教授)が解説。
「公益社団法人としての日本看護協会の災害支援活動」を井伊久美子氏(日本看護協会専務理事)が報告。被災3県である「岩手、宮城、福島の県看護協会の活動」内容を、それぞれ時系列で兼田昭子氏(岩手県看護協会長)、上田笑子氏(宮城県看護協会長)、高橋京子氏(福島県看護協会長)が振り返ります。
●各論Ⅰ 災害時の各組織の活動と考察
「災害支援ナース(および現地コーディネーター)の活動」の概要について、石井美恵子氏(日本看護協会看護研修学校認定看護師教育課程救急看護学科主任教員)が解説。災害支援ナースの派遣により被災県を支援した「千葉、愛知、兵庫の県看護協会の活動」内容をそれぞれ時系列で松永敏子氏(千葉県看護協会長)、中井加代子氏(愛知県看護協会長)、大森綏子氏(兵庫県看護協会長)が振り返ります。
次に、被災地域における「看護職員確保のための行政の取り組み」を岩澤和子氏(厚生労働省医政局看護課長)が概括します。他に行政では保健師派遣の調整業務を中心に、保健指導室の取り組みの概況を尾田進氏(厚生労働省健康局がん対策・健康増進課保健指導室長)が述べます。
災害医療派遣チームである「DMATの活動」については、福田淑江氏(国立病院機構災害医療センター看護部長)が報告します。同じく多岐にわたった「日本赤十字社の救護活動」については、浦田喜久子氏(日本赤十字社事業局看護部長)と東智子氏(日本赤十字社事業局看護部看護管理・教育課長)の2人で詳細に報告します。
被災した妊産婦・母子への対応としてさまざまな支援活動を展開した「日本助産師会の活動」概要を岡本喜代子氏(日本助産師会長)が報告します。
また、「日本災害看護学会の活動」については、同学会前理事長の山田覚氏(高知県立大学看護学部教授)が述べています。
各論Ⅰの最後は、前長崎大学病院永井隆記念国際ヒバクシャ医療センター助教として「長崎大学被ばく医療支援チームの活動」に携わった熊谷敦史氏(福島県立医科大学災害医療総合学習センター副センター長)が、振り返ります。
●各論Ⅱ 災害に対する備え―教育について
災害看護に関わる「日本看護協会の教育について」「概略」を井伊氏が述べ、「今後の課題」について、石井氏が述べます。
続いて、「日本災害看護学会のトリアージセミナー」の概要について、金澤豊氏(長浜赤十字病院医療社会事業部社会課係長)が紹介します。
●本書発刊の意義
今回の大震災では甚大な被害が広範囲にわたり、避難者や避難所数も想定をはるかに超え、これまでの災害とはタイプが異なるといわれています。死者数に対し負傷者数が少なく発災直後の緊急医療が必要な期間は短かった一方で、亜急性期以降の慢性疾患患者や感染症や高齢者に対する医療ニーズが高まりました。避難生活が長期化する中で乳幼児や高齢者、障がい者等の要支援者の生活、健康管理などに対する継続的支援が必要とされています。さらに高齢化が進んだ被災地域では、仮設住宅における高齢者対応や要介護者の在宅ケアなど、保健師、助産師、訪問看護師による地域に密着した長期的・継続的な支援活動が求められています。
一方で、被災地域の看護職を含めた医療従事者の確保が困難な状況は続き、人材不足が深刻化しています。被災地の安全な医療提供体制を整備するためにも看護職人材を確保することが喫緊の課題です。日本看護協会では、2011年5月に「東日本大震災復旧復興支援室(現東日本大震災復興支援室)」を設置し、2011年度に引き続き2012(平成24)年度も東日本大震災復興支援事業を重点事業の一つに位置づけています。看護職の確保支援はもとより、在宅ケアの強化、原発避難地域の保健活動支援、女性や母子のケア、看護職のこころのケアを柱に、長期的支援に取り組んでいます。
東日本大震災における災害看護についての本格的な検証はこれからです。本書では各組織の看護職の支援活動の記録とそこから得られた教訓、課題、今後に向けた提言がまとめられています。それぞれの組織が困難に直面しながら、どのように乗り切り支援活動を行ったのかをまとめた貴重な経験の記録です。一人でも多くの看護職と共有し、次の災害への備えとしての確かな資料となれば幸いです。
(平成24年版 看護白書 坂本すが日本看護協会会長 「発刊にあたって」より一部抜粋)
-「看護」2012年12月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –