評者:南 裕子(高知県立大学学長)
著者である黒田裕子氏は、阪神・淡路大震災の発災直後から文字どおり寝食忘れて、避難所・仮設住宅そして恒久住宅へと、時間の経過とともに場は違っても、そこに住む人々に寄り添って、創造的支援活動をされた。そして、その姿勢は東日本大震災までのほとんど全ての災害においても同じであった。
神崎初美氏は、兵庫県下での「まちの保健室」プロジェクトを始め、災害看護の実践的調査を重ねてこられた。したがって、この本には、お二人の経験の蓄積を通して得られた具体的で実際的な看護ケアが見事に描かれている。
事例は、「看護者が自らの手・目・心・耳・口を使って、いかに被災者に寄り添うことができるか――それが重要なのである(p.32)」という考え方の基に提供される看護ケアの方法が明白である。
避難所や仮設住宅についての情報の豊かさを基に、「人々の暮らしと健康に寄り添う」とは実際どういうことをすることかが丁寧に書かれている。被災地において支援を行う時の看護師にとって、携帯必須の書である。
この書を読んで思い出したのは、クリミア戦争下の過酷な環境の中で傷病兵に寄り添って工夫に工夫を重ねたフローレンス・ナイチンゲールのことであった。看護の原点は、先端的機械に囲まれた環境ではなく、傷病兵の生活環境の改善に始まったのだから。
-「看護」2012年12月号より –