地域包括ケアのもと“住み慣れた地域で暮らし続ける”ことを支えるために、 病院の看護師と訪問看護師が看護をつないでいきましょう

宇都宮宏子+本4c

宇都宮 宏子さん
(うつのみや・ひろこ)
在宅ケア移行支援研究所
宇都宮宏子オフィス代表
1980年京都大学医療技術短期大学部看護学科卒業後、医療機関勤務を経て、高松で訪問看護を経験し、1993年京都の訪問看護ステーションに勤務。介護保険制度創設時はケアマネジャー・在宅サービスの管理・指導者を務める。2002年より京都大学医学部附属病院で退院調整看護師として勤務。2012年4月に「在宅ケア移行支援研究所」を立ち上げ、医療機関の在宅療養移行支援や地域の在宅医療コーディネーター事業のコンサルテーションを行う

 

看護がつながる在宅療養移行支援

退院直後の療養生活が不安定な時期に、医療や看護・ケアを適切にかつ集中的に提供し、患者さんや家族を支え、療養生活を安定させることが大きな課題となっています。この移行期における看護ケアのマネジメントをまとめたのが『看護がつながる在宅療養移行支援』

 

本書に込めた思いや読みどころを、編者の1人である宇都宮宏子さんにうかがいました。

 

 

――退院支援・退院調整のパイオニア・先駆者として、講演や研修を通して全国の看護師へ熱いメッセージを送り続けていらっしゃいますね。

 

退院支援・退院調整は、患者さんの人生の再構築を支援することであり、特に退院支援は“看護そのもの”だと思います。

 

12年前に、私が訪問看護の世界から大学病院で退院調整看護師として活動を始めたときは「在宅療養できるように地域資源のコーディネートを専門的に実践する看護師が必要だ」と思っていました。しかし、医療現場では「当事者不在の退院調整(多くは転院調整)」が多く見られました。

 

在宅では、必ず本人を中心に決めてきました。病院でも、患者さんは自分のことを知る・考える・決める権利があり、その強さを持っています。

 

退院支援は意思決定支援、そして自立支援です。寄り添う看護師やMSWのサポートを受けながら、前を向き始め、たとえ治らない病気や障がいを抱えていても、残された時間が短くても、人生を生ききる患者さんの強さや大切な家族への優しさを知り、私自身、これからの医療や看護のあり方を再考することにつながっていきました。

 

 

――最近のご活動で、特に強調されていらっしゃることはどのようなことでしょうか?

 

退院支援や外来における療養支援がめざすところは「医療が患者さんの生活や人生を中断しないこと」です。住み慣れた地域で生活を続けるには何が必要かを、患者さんと一緒に考えること、そして、それを可能にするための地域づくりが、今、求められています。「治す医療から、治し支える医療へ」の転換であり、その先には「QOD(Quality of Death/ Dying)を高める医療」があります。
在宅療養移行支援は、在宅チームと協働して行い共有することが必要だと考えています。病院の退院支援・退院調整から在宅療養が安定するまでの移行期に行う看護ケアのマネジメントを、患者の状態像ごとに可視化すること、それを地域で共有することが質を高めることにもつながります。

 

退院直後の療養生活が不安定な時期に、医療や看護・ケアを適切にかつ集中的に提供し支えることで、その後の療養生活が安定し、生活や人生を中断せずに地域で暮らし続けることができると思います。

 

 

――本書はその思いや活動を形にしたものですね。

 

今回の企画のもとは、京都府看護協会で発行した『在宅療養移行支援ガイド』です。看護師やケアマネジャー等の研修に活用しています。このガイドには、訪問看護の支援を加えられませんでした。

 

本書では、特徴ある患者の状態像(患者像)ごとに、意思決定支援と自立支援を軸に、病院の看護と訪問看護による退院前後の支援を通してみることを試みました。“病院の看護による支援”は、私が提唱している「退院支援・退院調整の3段階プロセス」に沿い、“訪問看護による支援”は、準備期・開始期・安定期などに分けました。

 

執筆は全国で活躍する退院調整看護師や専門領域の看護師、そして訪問看護師の方々にそれぞれの立場でその実践をまとめてもらいました。

 

 

――どのような患者像を取り上げたのですか?

 

比較的長い間、機能が保たれながらも、最後は急速に機能が低下する「がん患者」では、意思決定支援やACP(Advance Care Planning)の視点で終末期の看取りに向けて支援することが、ますます重要になります。また、がんは入院による外科的手術後も外来で内服や化学療法の治療が続きます。通院中の療養生活が安定して継続するように、外来での療養支援は積極的な取り組みが必要です。

 

慢性疾患は、長い療養生活の中で、悪化予防や生活への影響の予測、さらにはACPの視点も必要となるでしょう。本書では、高齢者の「糖尿病患者」と「慢性心不全患者」を取り上げました。

 

「摂食嚥下障害のある患者」への支援も、本書の企画で重点を置きたかったことです。急性期病院でも食べることをあきらめない支援、在宅療養で食べることをめざして継続する支援は大切です。

 

また「子どもと養育者」の支援として、超低出生体重児と在宅で医療機器管理を要する子どもへの支援を取り上げました。子どもの在宅療養では、全体のコーディネートを養育者が担うことになります。この養育者を支え、子どもの成長という長期間にわたるケアの視点が必要です。

 

 

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 

診療報酬の後押しもあり、退院支援に取り組む病院看護部が一気に増えました。看護管理者は、まず地域へ出てほしいです。地域包括ケアを進めるための会議や研修等に参加し、地域が自施設に求めることに耳を傾けてください。

 

そして本書を参考に、特別訪問看護指示書を活用し、「移行期の訪問看護」を自院で責任を持つことにも取り組んでください。

 

さらに、各々の地域で訪問看護師と協働して、入院から在宅療養が安定するまでの看護ケアのマネジメントを可視化・標準化し、質の保証へと、ぜひ、進めていただきたいです。そして、看護がつながる「看護・ケア連携パス」へと発展させてください。

 

-「看護」2014年8月号「SPECIAL INTERVIEW」より –

 

看護がつながる在宅療養移行支援
病院・在宅の患者像別看護ケアのマネジメント