厚生労働省の「平成24年国民健康・栄養調査」の推計では、糖尿病が強く疑われる成人男女が約950万人に上ることが明らかになりました。前回の調査(2007年)から5年で約60万人増えています。また、「糖尿病が強く疑われる者」のうち約3割は治療を受けていないこともわかっています。糖尿病が自覚症状に乏しいこと、糖尿病と診断されて医療者から指示された食事療法や運動療法が厳しく、継続が難しいことなどが原因として挙げられます。
小社刊『糖尿病看護ベストプラクティス インスリン療法』は、インスリン療法を行う糖尿病患者への支援に焦点を当て、継続可能なインスリン療法の導入から治療継続のための支援、所属施設での活動について、糖尿病看護のエキスパートの実践を基に詳しく解説しています。
■患者の側からみたインスリン療法
インスリン療法を行う患者は、医師の処方に従って、食事の前・寝る前など決まったタイミングで、1日に1〜4回インスリン製剤を自己注射します。注射は毎日継続することが必要です。また血糖がコントロールできているかを把握するために、血糖値の測定を行い、それに合わせて食事等も調整します。このような療養行動を毎日続けることは、患者にとって非常に煩わしいことであることは否めません。
患者の状況によっては「仕事が忙しく、注射する時間・場所を確保するのが難しい」「糖尿病であることを職場の人に知られたくない」「高齢で注射手技が覚えられない」といったさまざまな要因で自己注射の継続が困難になることもあります。
■看護師の側からみたインスリン療法
医療者である看護師からみれば、インスリン療法は、患者の身体状態を良好に維持するために必要な治療であり、病状の悪化を防ぐためにも、継続するのは当たり前と捉えがちです。
それゆえに、治療を拒否したり、処方どおりの治療を受けない患者の気持ちが理解できないこともあります。
■インスリン療法の支援における看護師の役割と姿勢
患者がインスリン療法を継続していくためには、インスリン療法を受け入れた上で、日常生活と自己注射をはじめとする療養行動をうまく調和させていくことが重要で、看護の役割はそれを支援することです。
例えば、寝る前のインスリン注射を忘れてしまう患者には、忘れてしまいやすい生活状況があったり、処方どおりに注射をしない患者はインスリン療法を受け入れていなかったり、副作用に対する誤った認識を持っていたりすることがあります。
看護師には、患者の日々の生活や、インスリン療法に対するイメージなどを聴いて、患者がインスリン療法を生活の中に取り入れ、継続していくこととはどういうことなのかを理解しようとする姿勢が求められます。
■糖尿病とインスリン製剤に関する知識も重要
インスリン療法の支援には、看護師としての姿勢とともに、糖尿病とインスリン製剤に関する知識が必要です。
患者の病態によって、処方されるインスリン製剤の種類、注射をする回数・時間帯が異なります。看護師には患者それぞれの病態と、処方されたインスリン製剤がどのような効果を期待するものなのかを理解することが求められます。
本書では、糖尿病の病態と処方されるインスリン製剤の種類、注射器の種類、副作用である低血糖対策等必要な知識をしっかり示しました。
■「ベストプラクティス」の例
インスリン療法を導入する際には、医師の治療方針に沿って病態と製剤についての理解を促し、患者に注射の方法を習得してもらいますが、本書では、既存のやり方に固執せず、患者が習得しやすい方法を考え、時間がかかっても辛抱強く指導することを「ベストプラクティス」として示しています。こうすることで患者は確実に注射手技を習得でき、治療の継続につながっていきます。
■看護実践のベストプラクティスが詰まった1冊
本書では、このような姿勢を踏まえた看護実践の「ベストプラクティス」を1つひとつ示して解説しています。
本書で解説した「ベストプラクティス」の基本的な考え方はセルフケア支援全般に通じるもので、あらゆるケアの場面に応用できると言えます。
読んですぐに始められる「ベストプラクティス」から、スタッフへの指導、所属施設の医療安全に配慮した「ベストプラクティス」まで、幅広いレベルに対応しています。
ご自身ができるところから「ベストプラクティス」を実践していただき、インスリン療法を行う患者のQOL向上を支援していきましょう!
-「看護」2014年9月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –