“震災はまだ終わっていない”被災2年目に必要な看護支援とは

昨年3月11日の東日本大震災から1年半が過ぎ、ニュースで被災地の話題が取り上げられることも少なくなってきました。しかし被災地では今でも、仮設住宅で不自由な生活をされている方が大勢います。中には、知り合いがいないので家に閉じこもっていたり、誰にも知られずに孤独死される方もいます。小社刊『避難所・仮設住宅の看護ケア』は仮設住宅で必要な看護支援について記した(現在のところ)唯一の書籍です。被災地に赴く際は、ぜひご活用ください。

 

■孤独死は被災2年目に急増する

東日本大震災による仮設住宅入居戸数は、8月6日現在、約4万8,800戸です(厚生労働省調べ)。もともとのコミュニティが保たれた形で仮設住宅に集団移転した地域もあれば、コミュニティがばらばらになり、知り合いがいない環境の中で暮らしている被災者もいます。そのような中、誰にも看取られずに亡くなる「孤独死」が発生しており、早急に対応すべき問題となっています。

 

1995年の阪神・淡路大震災でも、仮設住宅の孤独死は深刻な問題となりました。震災1年目の孤独死者数は46人でしたが、翌年は72人に増加し、震災後5年間でも2年目が最多でした。東日本大震災でも、岩手・宮城・福島の3県の仮設住宅で孤独死した人は、震災から1年後の今年3月10日までは22人でしたが、その後5月までの2カ月間で11人と、2年目に入り急増しています。

 

■震災で助かった命は、絶対に落としてはいけない

小社刊『事例を通して学ぶ 避難所・仮設住宅の看護ケア』の著者・黒田裕子さんが理事長を務めるNPO法人「阪神高齢者障害者支援ネットワーク」は、震災から1年半が経過した現在も宮城県気仙沼市の面瀬中学校グラウンドに建つ仮設住宅で見守り活動を続けています。支援ネットワークのメンバーは、仮設住宅内にある集会所で寝泊まりしながら、24時間住民のケアにあたっています。

 

黒田さんは、宝塚市の老健施設の事業課長として設立準備の最中に阪神・淡路大震災を経験しました。この時「今しかできないことをしよう」と決めて退職し、「阪神高齢者障害者支援ネットワーク」を立ち上げ、ボランティア活動を始めました。神戸の復興住宅に拠点を置き、現在まで1日も休むことなく継続して見守り看護を続けています。

 

自身も神戸市の仮設住宅で約4年間暮らした経験から、「阪神・淡路大震災を経験した者として、1人でも多くの命を救うために、私たちのノウハウを有効に使ってほしいし、私たちには伝える義務がある」と語ります。

 

被災2年目になると、狭い仮設住宅での生活が長引いてストレスがたまり、心身ともに疲れが出てくること、自宅を再建した人と自分を比べてあせったり、落ち込んだり、イライラしたりすることを挙げ、「2年目だからこそ、震災で助かった命を守るために、地域がきめ細かに見守り、お互いを支え合う必要がある」と指摘します。

 

■働き盛り世代のアルコール依存症に要注意

被災地の多くの自治会では孤独死の予防策を模索していますが、震災前からの住民のつながりの薄さやプライバシーの問題が壁となっています。

 

黒田さんは仮設住宅の訪問の中で、酒量が増えている60代の独居男性に出会いました。その男性の部屋を度々訪問し、時間をかけて話に耳を傾けていくうちに、この方は正月におせち料理がないことで妻を亡くしたことに改めて気づかされ、抑えていた悲しみが一気に押し寄せ、酒で気持ちを紛らわすようになったことがわかりました。

 

阪神・淡路大震災後、兵庫県内の仮設住宅で孤独死した人の死因の約30%はアルコールに起因する肝硬変で、震災で家や職を失った40〜60代の男性に集中していました。一人暮らしだと周囲の目が行き届かず、飲酒に歯止めをかける存在がありません。孤立感が高まるにつれて酒量が増え、孤独死に発展するケースも少なくないようです。

 

東日本大震災で今年5月までに孤独死した33人の年代別内訳は、70代以上15人、60代11人、50代5人、30・40代は各1人でした。50代と60代が約半数を占め、男性が8割でした。50代・60代の男性は仕事など社会的行動が比較的盛んなため、ケアの網から抜け落ちやすいのではないかと推定されています。今後、仮設住宅から人が少しずつ減っていくと、取り残される不安から部屋に閉じこもり、うつ病やアルコール依存症を引き起こす恐れがあることが危惧されています。

 

■孤独死を防ぐために

「阪神高齢者障害者支援ネットワーク」が支援している面瀬中学校仮設住宅の集会所は、住民がいつでも気軽に訪れてお茶を飲みながら話をしたり、健康相談ができるように、日中はスタッフが常勤しています。スタッフミーティングでは、集まりに顔を見せない人、以前は来ていたのに来なくなってしまった人、体調を崩された人などの情報を共有します。

 

黒田さんは仮設住宅住民の訪問時にチェックリスト(表)を活用し、きめ細やかに見守り活動をすることが重要だと語っています。

 

小社刊『事例を通して学ぶ 避難所・仮設住宅の看護ケア』では、災害直後から数カ月が経過した災害中期までの避難所での看護ケアと、仮設住宅での見守り支援について、著者の実体験に基づいた事例を通して学ぶことができます。

 

被災地ではまだ、看護支援を必要としている方が大勢いらっしゃいます。支援に行く際にぜひ本書を持参し、困ったことがあったら本を開いてみてください。きっと参考になることと思います。

 

-「看護」2012年11月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –