「社会人基礎力」で、養いたい姿勢・態度を 行動に可視化してみませんか?:『看護職としての社会人基礎力の育て方』

新刊『看護職としての社会人基礎力の育て方 専門性の発揮を支える3つの能力・12の能力要素』は、経済産業省が示す「社会人基礎力」を新人の社会化など看護職の人材育成に役立てていただくための1冊です。社会人基礎力とはどのようなものか、一部ご紹介しましょう。

 

■どんな仕事にも必要な最小限の能力

「社会人基礎力」とは2006年に経済産業省より「どんな仕事に就いても求められる必要最小限の能力」として打ち出された概念で、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義される、能力の育成・評価指標です。〈3つの能力・12の能力要素〉で構成されています(表1)。

 

■専門性の発揮を支える力/専門能力以前の力

社会人基礎力は「基礎学力と専門能力を活かす力」です。専門性の発揮を支える力と言えます。逆に言うと、この力が不足すると専門知識・技術があっても、それを活かせないことになり、その意味では「専門能力以前/仕事以前の根本的な(人としての)力」とも言うことができます。

 

■切実な現場の声から打ち出された概念

この概念・指標は、学校から社会に送り出されてくる若い人の持つ能力と、実際に現場が求める能力の乖離に大きな危機感を抱く産業界の切実な声を受けて打ち出されたものです。  看護界で議論されてきた「卒業時の実践能力と臨床の求める実践能力との乖離」と同様の状況があったのです。

 

■学生、新人はもちろん経験を重ねた社会人にも

「そもそも、若い人に特に不足が見られる能力・資質の正体とは一体何か?」「若い人に限らず、経験を重ねた社会人にも必要な、仕事の内容や発達段階に応じて必要な力とは何か?」。これらの可視化と育成・評価指標の開発に同省は着手、教育現場の実情や課題、社会・職場環境の変化、現場のニーズなどをリサーチし、それらの能力が「人」「課題」「自分」に関する能力に集約されるとした上で、それらに含まれる個別の能力要素を抽出、まとめたものが先の〈3つの能力・12の能力要素〉です(「社会人基礎力に関する研究会『中間取りまとめ』」2006年1月20日)。

 

■あいまいになりがちな姿勢・態度の評価項目

社会人基礎力に相当する能力や資質は、看護の領域ではこれまでも「○○としての姿勢・態度」などとして育成・評価が図られてきたものです。ですので、この概念の内容自体が特別に新しいもの、というわけではありません。ただ「自律した姿勢」など、謳われる言葉や評価項目はあいまいなものになりがちなため、「実際にはどんな行動を指すのか」「どのような行動がその姿勢や態度の育成につながるのか」が見えにくく、評価者によって解釈が異なったり、具体的なアドバイスや目標設定につなげにくい、学生や新人の社会化や経験を重ねてきたスタッフへのサポートが不十分になりがちである、などの課題がありました。

 

■行動に落とし込んだ指標で評価、
 より具体的なアドバイスや目標設定につなげる

社会人基礎力は「これらのあいまいになりがちな姿勢や態度面の評価項目を、職場や部署が求める人材像に応じて12の能力要素ごとに意味づけし、“具体的な行動例”を挙げ、それらを指標として育成・評価していきませんか」というものです。「できていること」「できていないこと」に新人や学生が自ら気づくことで、求められている能力や行動を意識することが可能になります。

 

■臨床・学校での取り組みの実際例を紹介

本書は、これらをねらいとして編んだものです。臨床と学校(大学、専門学校)の取り組みの実際を、看護での意味づけ・行動指標例などを示して解説、社会人基礎力が社会人全般に必要なものであることを踏まえた上で、特に学生・新人への育て方、社会化への役立て方などを中心に述べています。臨床実践能力、さまざまな目標として組み込まれた養いたい姿勢・態度、学士力などとの対比も容易です。本書を参考に皆様の施設や部署、学校に適した行動例を挙げて指標をつくってみてはいかがでしょうか。

 

-「看護」2013年1月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –

  • 看護職としての社会人基礎力の育て方