鹿児島大学病院看護部、鹿児島県看護協会、NPO法人メッセンジャーナースかごしまの活動等を通じて、離島へき地における看護の課題に取り組む筆者からの報告を2回にわたって紹介します。
田畑 千穂子 ● たばた ちほこ
NPO 法人メッセンジャーナースかごしま 代表
鹿児島県看護連盟 会長
今回は、十島村における看護師2人体制実現の経緯をはじめ、中之島で行った健康教室、口之島での人生会議、そして島民への自宅訪問の様子を通して、離島での看護職の活躍と住民との深いかかわりについて報告します。
十島村における看護師2人体制の実現
2016年、鹿児島大学地域防災教育センター主催の「第4回かごしま国際フォーラム」が開催されました。大会テーマは「島嶼・へき地のルーラルナーシングと災害看護」でした1)。カナダのサスカチュワン大学看護学講師Mary E. Andrews氏が「カナダのへき地における看護実践の課題」を講演し、その質疑応答で十島村の参加者から看護師配置人数について聞かれたAndrews氏は、「カナダでは、看護師の在宅訪問の移動はセスナ機で、看護師は2人体制」だと回答しました。
この「看護師2人体制」の情報を受けた十島村の村長は、すぐさま「十島でも看護師2人体制を導入する」と決断し、予算化が進められました。それから9年がたち、現在では5つの島で2人体制が実現しています。
この国際フォーラムの開催が十島の医療体制に影響を与えたことが成功体験となり、「看護研究活動は社会を変える」「一歩でも前へ動かす行動力が誰かの心を動かし、いつか山が動く」という信念が筆者の看護活動の「芯」となりました。
その後、県看護協会長であった筆者は、十島村の看護師確保のため、eナースセンターへの募集協力や県看護協会の広報誌への記事掲載などを続けました。
中之島の地域活動と健康教室
1)介護予防生活支援拠点施設「くつろぎの郷」
中之島の面積は34.48km2、人口143人、世帯数86(2025年8月31日現在)。面積・人口ともに十島村で最大の島です。島の中北部にそびえるトカラ列島最高峰の御岳(979m)は、登山もでき「トカラ富士」とも呼ばれる美しい稜線を持っています。また、ふもとには鹿児島県天然記念物のトカラ馬が放牧されています(写真1)。
写真1▶︎中之島のトカラ富士とトカラ馬
8月31日、国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長で便秘・過敏性大腸炎(IBS)の専門家である水上健医師(出会いの経緯は前号を参照)と、鹿児島大学医学部保健学科の実習で同行した看護学生3名とともに、へき地診療所および介護予防生活支援施設「くつろぎの郷」を訪ねました。
「くつろぎの郷」には、住民が自由に入れる温泉施設が併設されており、入口にあった七夕飾りの「2人で仲良く笑って島で暮らせるように」という短冊が目に留まりました。デイケア利用者の家族が書いたものでした。ここでは、高齢者の重症化予防や住み慣れた島での生活継続を支援しています。筆者らは地域の交流の場、「くつろぎカフェ」(写真2)に参加しました。
写真2▶︎「くつろぎカフェ」にて(右から2人目が水上医師)
同行の学生が地域活動の難しさについてスタッフの介護職に尋ねると、「温泉や道路で出会う島民と世間話をする中で、野菜づくりが好きとか、大名筍(島の特産品)取りが得意とか、そんななにげないコミュニケーションを通してつながりを広げている」と回答があり、島民との間の密接な関係性がうかがえました。介護食の話題になると島民と一緒に採って冷凍保存した山菜(ツワブキ、モリンガ、大名筍)や保存食(らっきょう)を見せてくれました。また、島民は自宅に風呂をつくらず、日常で島の温泉を利用しており、社交場として生活情報を交換し互いの健康確認を行う大切な場となっていました。
→続きは本誌で(コミュニティケア2025年12月号)









