コミュニティケア夏号 特集1 各論

関係が何度も揺らぐ利用者とのかかわりの中で、看護師自身の利用者への見方や支援のあり方が少しずつ変わっていく経験を通して、訪問看護だからこそ担える役割について考えます。

 

平野 智子 ひらの さとこ

訪問看護ステーションコスモス 所長

 

「問題のある人」という見方を超えて「つながりを求め続ける人」として支えることに気づく

 

 

孤立を深めながらも、つながりを求める

1. 繰り返されてきた関係の断絶

Aさんは30歳代女性で、統合失調症の診断を受けています。過去に他の訪問看護ステーションを数回利用した後に当ステーションがかかわっていましたが、看護師が被害妄想の対象となって何度も担当変更となり、転居を機に訪問看護は終了していました。その後、精神症状の再燃による措置入院を経て、本人の希望により再び訪問看護を開始することになりました。

 

今回は、措置入院後としては2回目の依頼でした。入院により地域とのつながりが途切れた後、再び訪問看護へ連絡をしてくることが繰り返される中で、訪問看護がAさんにとって「戻ることのできる関係」の一つになっていたようにも感じられました。

 

Aさんはこれまで、就労や対人関係の構築に何度も挑戦し、その過程で傷つき、関係が破綻する経験を重ねてきました。そのたびに飲酒量は増加し、生活が乱れる傾向が見られ、状態が悪化すると被害的な言動が顕著となり、入院に至ることもありました。

続きを読む…

コミュニティケア夏号 特集2 報告②

専門性の深化は、特定領域の知識や技術を磨くことにとどまりません。神経難病に特化することで独自の価値を築き、地域の支援体制の充実にもつなげてきた取り組みを紹介します。

 

西尾 まり子 にしお まりこ

地域ケアステーション八千代・訪問看護ステーション

管理者

在宅ケア認定看護師

 

神経難病に特化した訪問看護で

価値と役割を深め続ける

 

当グループは大阪府堺市・和泉市に2拠点を構え、堺市全域をはじめ和泉市、狭山市、高石市など近隣エリアへの訪問看護を行っています。開設11年目を迎えた現在、看護師約40名、理学療法士12名、作業療法士5名、言語聴覚士3名、看護補助者7名、介護支援専門員4名、事務員8名、総勢約80名の多職種チームが日々活動しています。スタッフ一人ひとりの尽力により、今では多くの神経難病療養者を地域で支えられるようになったと自負しています。

 

独自の役割と価値は

神経難病療養者を支えること

 

大阪府は全国で最も訪問看護ステーション数が多い都道府県です。堺市は人口約80万人の政令指定都市であり、訪問看護ステーション数は年々増加し約250カ所あります。その中で地域の実情を踏まえ、これからどのような役割を持つステーションに価値があり必要とされるのかを考えました。最初の目標として「これでいいのだ! の地域ケア」(本人・家族が「これでよかった」と思えることを正解とする考え方)を掲げましたが、ターゲットが広すぎて手応えを感じられませんでした。

 

そこで、専門的な強みを全面的に出し、独自のスタイルを構築することで、他のステーションとの差別化をはかることが必要だと考えました。そのために難病看護師である自身が理想とする「神経難病療養者を地域で支えることができるステーション」を目標とし、専門性を磨き地域連携を構築し独自のサービスを追求していく方向性としました。

続きを読む…

コミュニティケア冬号 寄稿

語りは重層的です。ある人のものがたりが語られるとき、記憶される経験が時を経て感じ方や考え方を変え、時にその人のものの見方を新たな視野へ、次の成長へと導いていきます。

 

嶋守 さやか しまもり さやか

桜花学園大学教育保育学部 教授

 

金城学院大学大学院文学研究科博士後期課程修了、社会学博士。著書に『孤独死の看取り』『虐待被害者という勿れ 虐待サバイバーという生き方』(新評論)などがある。2025年11月、研究テーマ「生ききるケアを生きる──よい訪問看護とは何か」を基に書き下ろした、『訪問看護ものがたり ご在宅の力』(同)を刊行。

 


 

看護とことば「ちょっと、やっぱり」

 

看護師たちの“語りの揺れ”

 

昨年の11月に『訪問看護師ものがたり ご在宅の力』を上梓しました。6人の訪問看護師へのインタビューをもとにしたこの書籍には、「人として生ききる」ことを最期まで諦めない人々に「沿う」ことで生まれた訪問看護師の語りが収録されています。社会学者として現象学的質的研究に取り組む私にとっては、一人の語り手によって語られる内容の順序や繰り返し、癖や言い淀みなどの“語りの揺れ”が、分析のための重要な手がかりとなります。それらを丁寧に追うことで、一人ひとりの看護師によって生きられる経験世界のかたちが見えてくるのです。

 

本稿では、そんなインタビューの中で、ある病棟の看護師が自身の看護についてどのように語ったのかを示したいと思います。その看護師をここではEさん(50歳代)と呼びましょう。彼女が過ごしてきた病棟での日常で何を目にし、どのように心に留め、自身の看護観に連動させていったのか。それを「ものがたり」、つまりEさんのナラティブ分析として描いていこうと思います。

 

続きを読む…

コミュニティケア冬号 特集2 1.総論②

持続可能な保健医療制度のために、看護の専門性とプライマリ・ヘルス・ケアの理念を体現する訪問看護ステーションの重要性について解説します。

 

喜多 悦子 きた えつこ

笹川保健財団 会長

 


 

ますます存在が重要になる
訪問看護ステーション

 

日本では、世界に類を見ない速度で超高齢化と少子化が同時に進行しています。そのような社会状況の中で、高齢者は明確な疾患がなくとも、加齢に伴う心身機能の低下により、日常生活において体調不良や将来への不安を抱えやすくなっています。

 

1961年に確立された国民皆保険制度は、「誰でも、いつでも、どこでも医療を受けられる」体制を実現し、日本の平均寿命の延伸と健康水準の向上に大きく寄与してきました。一方で、その利便性は、軽微な体調変化や不安に対しても医療機関を受診する行動を常態化させた側面を持っています。長寿社会を実現した半面、高齢化の進行と相まって医療費や介護・福祉関連経費は急増し、現役世代の負担や国家財政に深刻な影響を及ぼしています。政府はさまざまな対策を講じてきましたが、社会構造の変化はそれを上回る速度で進行し、増え続ける高齢者と社会的コストに、いかに対応するのかが問われています。

 

本稿では、今後ますます必要性と重要性が高まる訪問看護ステーションの開設1)に着目し、「日本財団在宅看護センターネットワーク」構築の経過2)を踏まえながら、近年の知見を基にその意義とあるべき姿を論じます。

 

訪問看護ステーションが担う

幅広い役割

 

病院中心の医療提供体制は、財政的にも人的にも限界に近づいています。少子化の進行により、医療・介護・福祉分野における人材確保が困難となる中、医療の重心を病院から地域・在宅へ移行させることは不可避となっています。

 

政府は地域包括ケアシステムを推進してきましたが、医療施設依存型の意識はいまだ根強く残っています。一方で、過疎化が進む地域では医療機関が存在していても、通院手段を持たない、あるいは経済的理由により受診が困難な高齢者が制度から取り残されつつあります。高度医療は病院が短期間担い、その後は速やかに在宅へ移行し、生活の場で継続的に医療と看護を提供する体制の構築が不可欠です。

 

続きを読む…

特別記事 島の人々の生活と健康を支える看護職 トカラ列島の群発地震レポート②

鹿児島大学病院看護部、鹿児島県看護協会、NPO法人メッセンジャーナースかごしまの活動等を通じて、離島へき地における看護の課題に取り組む筆者からの報告を2回にわたって紹介します。

 


田畑 千穂子 たばた ちほこ

NPO 法人メッセンジャーナースかごしま 代表
鹿児島県看護連盟 会長


 

今回は、十島村における看護師2人体制実現の経緯をはじめ、中之島で行った健康教室、口之島での人生会議、そして島民への自宅訪問の様子を通して、離島での看護職の活躍と住民との深いかかわりについて報告します。

 

十島村における看護師2人体制の実現

 

2016年、鹿児島大学地域防災教育センター主催の「第4回かごしま国際フォーラム」が開催されました。大会テーマは「島嶼・へき地のルーラルナーシングと災害看護」でした1)。カナダのサスカチュワン大学看護学講師Mary E. Andrews氏が「カナダのへき地における看護実践の課題」を講演し、その質疑応答で十島村の参加者から看護師配置人数について聞かれたAndrews氏は、「カナダでは、看護師の在宅訪問の移動はセスナ機で、看護師は2人体制」だと回答しました。

 

この「看護師2人体制」の情報を受けた十島村の村長は、すぐさま「十島でも看護師2人体制を導入する」と決断し、予算化が進められました。それから9年がたち、現在では5つの島で2人体制が実現しています。

 

この国際フォーラムの開催が十島の医療体制に影響を与えたことが成功体験となり、「看護研究活動は社会を変える」「一歩でも前へ動かす行動力が誰かの心を動かし、いつか山が動く」という信念が筆者の看護活動の「芯」となりました。

 

その後、県看護協会長であった筆者は、十島村の看護師確保のため、eナースセンターへの募集協力や県看護協会の広報誌への記事掲載などを続けました。

続きを読む…