経営者の高齢化等により注目されている事業承継。成功させるにはいくつかのポイントがあります。本連載では、事業承継とは何か、事業承継の流れ・留意点などの基礎知識を解説し、実際の支援事例を紹介します。
訪問看護ステーションの事業評価
デューデリジェンスの重要性
坪田 康佑
つぼた こうすけ
訪問看護ステーション事業承継検討委員会
一般社団法人医療振興会代表理事
看護師/国会議員政策担当秘書
訪問看護ステーションの
過去と未来を評価する
「デューデリジェンス」(Due Diligence)とは、経営状況や財務状況を調査して企業を適正に評価することであり、一般的に買い手側が売り手に対して、専門家を介し実施するものです。過去・現在の評価に加え、事業の将来展望の分析も行います。
過去・現在の評価は、主に「財務」「税務」「債務」「法務」「人事」の観点から行われ、事業承継後に発覚する可能性のある問題を事前に把握し、抱えるリスクを最小限に抑えます。例えば、過去の不正請求や未払いの残業代などが後日明らかになった場合、その責任と財務的負担は新しい経営者に移ることになります。そのため、デューデリジェンスでは過去から現在に至る事業運営の適正性を綿密に調査します。
一方、将来展望の分析は「事業戦略」「オペレーション」「知的財産」などの側面から多角的に実施され、事業承継後の成長可能性や発展性を評価します。ここでは事業の収益力、人材の融和と活性化、知的財産の活用などが重点的に検討されます。また、承継先の既存事業とのシナジー効果が期待できるかどうかも重要な検討事項となります。
〈新連載〉
「People-Centered Care(PCC)」とは、市民が主体となり保健医療専門職とパートナーを組み、個人や地域社会における健康課題の改善に取り組むことです。本連載では聖路加国際大学のPCC 事業の中で経験した「個人や地域社会における健康課題の改善」を紹介します。
射場 典子●いば のりこ
聖路加国際大学PCC開発・地域連携室
中村 めぐみ●なかむら めぐみ
聖路加国際大学PCC開発・地域連携室
連載のはじめに
市民主体のケアにおける
看護職のありよう
市民が主体となるケアとは
聖路加国際大学では2003年よりピープル・センタード・ケア(PCC)という新たなケアの開発に取り組んでいます。
「医療の主人公は誰か?」そんな当たり前の問いからPCCの探求は始まりました。誰もが自分の人生の主人公であり、生活の主体であるにもかかわらず、医療の場では受け身となり、医療者がよかれと思う道筋へと進んでしまいがちなのはなぜでしょうか。
PCCのPは“Patient”ではなく、“People”であり、看護の対象を「患者」という医療の枠組みのみで捉えるのではなく、地域社会で暮らしている人(市民)と捉えます。そして、市民1人ひとりが医療者とパートナーを組み、自分自身や地域社会における健康課題の改善に向けて取り組むことが市民主体のケアと言えます。
看護職の需要が増大する今、看護管理者は何をすべきか?
基本指針を踏まえて徹底解説!
看護界における最新・最重要のデータと情報を集約して発信する『看護白書』。令和6年版では、2023年に初改定が実現した「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」を大特集。そのポイントや看護管理への活かし方がわかる1冊となっています。
2023年10月、「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」(以下、基本指針)が告示されました。1992年に制定された「看護師等の人材確保の促進に関する法律」に基づき、同年に制定された基本指針が、看護を取り巻く環境の変化を踏まえて初めて改定された画期的な出来事でした。
●監修 福井 トシ子
国際医療福祉大学大学院副大学院長/教授
●企画協力
鳥海 和輝
『Gem Med』編集主幹
小野田 舞
一般社団法人看護系学会等社会保険連合 事務局長
診療報酬等に関連する用語の理解や管理指標の持つ意味、病院機能ごとの経営の考え方について解説するとともに、事例を通じて、看護管理者が病院経営に貢献するためのヒントを探ります。
*vol.1〜6は【解説編】、vol.7以降は【実践編】となります。
vol.9 実践編③
損益分岐点を用いた経営提案
近藤 由理香
こんどう・ゆりか◉杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センター師長。杏林大学保健学部看護学科卒業後、杏林大学医学部付属病院に勤務。現在、産科病棟で産科ケアの導入に携わっている。国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野 医療経営戦略コース修士課程修了。
新たな企画を実施するときに重要なことは、その事業(企画内容)が組織と社会にとってどれほど有益なものであるかを、事業主(病院長、理事長など)に伝えることです。これまで本連載で述べてきたように、病院は営利を目的とする企業ではないとは言え、有益性があり、収益の見込める事業を実施する必要があります。
ここでは、産科病棟で産後ケア(宿泊型)を新たに開設する事例から、損益分岐点について解説します。産後ケアは、こども家庭庁が提唱している「安心・安全で健やかな妊娠・出産、産後を支援する体制」の一事業として、2021年4月に施行された母子保健法に定められています(第17条の2)1)。産後ケア事業の実施主体は市町村ですが、受託先の不足が課題となっており2、3)、病院の空床利用も認められています4)。