経営者の高齢化等により注目されている事業承継。成功させるにはいくつかのポイントがあります。本連載では、事業承継とは何か、事業承継の流れ・留意点などの基礎知識を解説し、実際の支援事例を紹介します。
〈最終回〉
訪問看護の未来に手渡すバトン
坪田 康佑
つぼた こうすけ
訪問看護ステーション事業承継検討委員会
一般社団法人医療振興会代表理事
看護師/国会議員政策担当秘書
2025年4月、セントケアホールディングス株式会社は、訪問看護支援システム「看護のアイちゃん」などを所有するセントワークス株式会社の全株式を、ヘルスケアソリューション事業や在宅サービス事業を手がけるインターネットインフィニティ社に株式譲渡しました。この出来事は、訪問看護業界における事業承継が活発化し、日常的なトピックとなりつつあることを示しています。事業の「バトンタッチ」は今や当たり前の経営戦略として定着しつつあることを実感します。
さて、本連載もいよいよ最終回となりました。今回はこれまで紹介してきた内容を振り返りながら、訪問看護の事業承継の今後について述べてみたいと思います。
事業承継は喫緊の課題
2022年11月に開催された第12回日本在宅看護学会学術集会での集会長講演で、川添高志氏(ケアプロ株式会社代表)が子会社であるケアプロ在宅医療株式会社の株式を、株式会社地域ヘルスケア連携基盤(CHCP)のグループ会社である株式会社CHCPナーシングケアに株式譲渡したことを発表しました。これは学術集会のテーマであった「在宅看護のサステナビリティ」に通じる体験として話題に上がったもので、ほかのセッションで「訪問看護事業承継ガイドライン」を紹介する予定だった筆者は、開会早々に事業承継の話題が飛び出したことに驚きました。
川添氏は同講演で、わが国の訪問看護事業を3つの世代に分類しました。第1世代は1982年の老人保健法制定から1999年までの創業期、第2世代は2000年の介護保険法施行から2011年までの停滞期、そして第3世代は2012年以降の成長期です1)。第1世代の訪問看護ステーションは創業からすでに40年を超えているところが多く、第2世代も約20年に到達し始めています。管理者の年齢も、大まかな計算で開業時に35歳だっとすると第1世代は75歳、第2世代でも55歳となることから、すでに多くの訪問看護ステーションが事業承継の時期に差しかかっていると言えるでしょう。
筆者は30代のとき、突然体調を崩して緊急入院したことをきっかけに事業承継を行いました。それまで毎日かかわってきた地域の利用者のため、なんとかして事業を継続させようと、後継者のあてもなく、準備もまったくない状態で承継先の検討や計画策定などに奔走しました。本連載は、わが国の訪問看護が重要な時期にあることに加え、そうした自身の経験に基づく問題意識を背景にスタートしました。
事例を通して伝えたかったこと
本連載ではまず、「事業承継って、そもそも何から考えればいいの?」「いつごろから準備が必要?」といった基本的な疑問に答えることから始め、そこから実際の契約ステップ、経営承継と資産承継の違い、そして専門用語の解説へと段階的に理解を深められるよう心がけてきました。また、事業承継の実際をなるべくリアルに伝えるために多くの事例を紹介しました。
例えば、第11回(2024年5月号)でお話を聞いた訪問看護ステーションの経営者Aさんは、「引退はまだ先」と考えていましたが、健康問題で事業継続が困難となりました。急な必要に迫られ、慌てて事業譲渡を進めたAさんは、十分な知識がなく準備もできなかったため、承継先に決めたBさんの経営者としての資質を見極められず、結果としてBさんの資金繰りが破綻し、そのステーションは廃業せざるを得なくなりました。
こうした失敗をしないために、連載では事業承継には十分な準備と適切な評価が必要であることを繰り返し述べてきました。また、事業承継に関する知識を得たり、支援を受けたりする上で必要な「買い手」の視点や、M&Aアドバイザーの活用法、M&Aプラットフォームなども取り上げ、それらの実務的な利用法にも触れてきました。さらに、事業承継における「デューデリジェンス」の重要性や、経済産業省・中小企業庁が改訂した「中小M&Aガイドライン第3版」2)のねらいについても解説し、事業承継を検討する際の指針となるよう努めました。
そのほか、ステーションの事業を受け継いだ管理者(2024年11月号)、事業承継支援者のM&Aアドバイザー(2025年2月号)、譲渡した元経営者(2025年4月号)といったさまざまな人物へのインタビューも行い、関係者の具体的な声を届けることで、読者の皆さんが事業承継を身近に感じてもらえるようにしました。
→続きは本誌で(コミュニティケア2025年7月号)