「京都式認知症ケアを考えるつどい」②

その①
その③
その④

 

認知症の「入り口問題」とは?

 

13時からスタートした「つどい」。そのプログラムは、次のような構成でした。

 

①開会のあいさつ

細井恵美子(山城ぬくもりの里施設長、元京都南病院総婦長)

②趣旨説明

森俊夫(京都府立洛南病院・認知症疾患医療センター)

③基調講演

武地一(京都大学医学部附属病院老年内科診療科長)

④パネルディスカッション

【座長】

森俊夫

【パネリスト】

高見国生(認知症の人と家族の会)

辻輝之(中央区認知症連携の会・中京東部医師会副会長)

宇都宮宏子(京都大学医学部附属病院地域ネットワーク医療部)

橋本武也(特別養護老人ホーム同和園常務理事・園長)

杉原優子(京都府介護福祉士会会長)

三浦ふたば(京都市地域包括支援センター・在宅介護支援センター連絡協議会顧問)

【指定発言】

成本迅(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)

(以上、敬称略)

※午前中にもプレス向けのセミナーがありました

 

細井恵美子さんのあいさつ、森俊夫先生による趣旨説明の後に、最初のメインプログラム、武地一先生による基調講演が始まりました。

 

テーマは「認知症になっても地域の中で今までどおり暮らし続けたい」。

 

「つどい」の呼びかけ人の一人である武地先生は、後述する「2012京都文書」を検討・作成するため、また「認知症ケアの今と今後への道筋」を提示するため、「つどい」実行委員が協力して、“調査”を行ったことを説明します。武地先生は、この調査の内容や方法、結果の概要について、わかりやくす解説していきました。

 

調査は、約30人の専門職と家族が、計3回のアンケートに回答し、その内容を「デルファイ法」という分析方法で分析してまとめる、というものです。ちなみにデルファイ法とは、数値的なデータの集計だけでは難しい社会的な事象を、数値的なデータに還元して分析するのに優れた手法です。

 

計3回のアンケートの流れは、まず1回目に“9つの質問”に対して記述式の回答をしてもらい、その回答のうち意味合いの似たものを合わせていき、項目としてまとめます。2回目、3回目はその項目に対して、「強く同意する~全く同意しない」までの8段階尺度で回答を求める、という方法で進められました。

 

初回の質問項目は以下の9つです。

 

①認知症を生きる人からみた地域包括ケアという観点から、

「できていること」。

 

②認知症を生きる人からみた地域包括ケアという観点から、

「できていないこと」。

 

③現在、認知症ケアから排除されている(不十分な対応しかなされていない)あるいは、地域包括ケアから排除される可能性のある認知症の人。

 

④認知症の人およびその家族への取り組みの中で、対応がうまくできていないと思われる事例、あるいは対応が困難な事例。

 

⑤認知症医療やケアへのアクセスが遅れて生活が破綻してから初めて事例化する(入り口問題)ケースはどのような場合に起こりやすいか。あるいはその事例や原因。

 

⑥入り口問題、すなわち、医療やケアの手が行き届かない、あるいは、医療やケアの場面にたどり着かない(場合によってはたどりつこうとしない)認知症の人への対策について。

 

⑦認知症医療確立への道筋について、何が必要か、思いつくこと。

 

⑧認知症ケアの確立への道筋について、何が必要か、思いつくこと。

 

⑨認知症を生きる彼や彼女らの思い(当事者の声、家族の声)について、彼・彼女の希望は何かなど考えながら、満たされていないニーズについて。

 

調査の結果をいくつかご紹介します。

 

①の「できていること」には、65項目挙がりました。そのうち、「回答者のコンセンサスが得られた」(数字的には、尺度調査で平均値と標準偏差の“設定した値”をクリアした)項目は、「介護保険制度の市民への浸透」と「認知症という名称の普及」の2つだけでした。

逆に言うと、その他の63項目は、回答者から「できている」として挙げられた項目ではあったものの、全員の合意は得られないもの、と捉えることができます。

例えば、以下のようなものが挙げられます。

「認知症の早期診断」「認知症に対するパーソンセンタードケア」「地域包括などが認知症相談の窓口になった」など。

 

②の「できていないこと」としてまとめられた項目は、全部で63。そのうち25項目で回答者のコンセンサスが得られました。

一部を次に示します。

「病院看護師の認知症理解」「医師に対する認知症教育」「専門医・専門医療機関の数」「身体合併症で入院の際の対応」「施設間の格差を少なくすること」「軽度認知症に対するケアやサービス」などなど。

 

続いて武地先生は、③~⑥、あるいはすべての質問項目とも関連する「入り口問題」について解説を進めます。

これは、森先生が提唱された新しい言葉で、「広義」の意味と「狭義」の意味を持ちます。広義のほうは、「地域包括ケアに包摂されない可能性のある認知症の人」の問題。狭義のほうは、「ケアへのアクセスが不全なため包摂できない問題」です。

 

武地先生は、これらの問題を生じさせている要因と、その対策への道筋を、調査結果から説明していきます。

例えば、「ケアへのアクセス」という狭義の問題には、アクセスする側に「独居」や「家族の知識不足」などの要因が、アクセスされる側には「アウトリーチ機能の未成熟・不在」「早期発見するシステムの未成熟」などの要因があります。

その対策として考えられることは、「かかりつけ医と地域包括の連携強化」「訪問型認知症疾患医療センターの新設」「地域包括支援センターを相談窓口として周知」などがある、といった具合です。

 

調査で回答者のコンセンサスが得られた項目は全部で236ありました。武地先生は、今回の調査の意義について、「我々は認知症の人が快適に暮らす方法をたくさん発見できたのではないか」と評します。そしてそれをどのように今後、実施していくのかを課題として挙げ、講演を締めくくりました。

 

③へつづく