「京都式認知症ケアを考えるつどい」③

その①
その②
その④

 

認知症を生きる彼・彼女たちからみた地域包括ケア


パネルディスカッションは、座長を森俊夫先生が務め、パネリストとして次のメンバーが登壇しました。

 

高見国生(認知症の人と家族の会)

辻輝之(中央区認知症連携の会・中京東部医師会副会長)

宇都宮宏子(京都大学医学部附属病院地域ネットワーク医療部)

橋本武也(特別養護老人ホーム同和園常務理事・園長)

杉原優子(京都府介護福祉士会会長)

【指定発言】

成本迅(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)

(敬称略)

 

このパネルディスカッションは、武地先生が基調講演で解説した“調査”の中の質問と関連する6つのテーマについて、パネリストがそれぞれの立場から発言するかたちで進められました。ところどころにユーモアを交えたディスカッションで、会場からは笑い声も聞こえてきました。

 

テーマ1:評価していること

テーマ2:変わらなければいけないこと

テーマ3:入り口問題

テーマ4:医療の現場から

テーマ5:認知症ケア

テーマ6:排除されやすい人たち

 

ここでは、テーマごとに、いくつかの発言の概要を紹介していきます。

 

テーマ1:評価していること


宇都宮さんは、「病院の医療だけでは認知症の方を支えることはできない」ということを、多くの医療者がわかっていることを、医療側の評価できることとして挙げました。

また、退院支援・退院調整の場面を通じて、「介護保険を利用することで、生活療養を安定にもっていくことができること、そこに医療者がきちんとつないでいくことが大事」だということにも気づいていると、実感を述べました。

 

高見さんは、何と言ってもまず、この「つどい」が開かれたことを評価している、といちばんに挙げました。今年の介護保険の改正や、2010年に示された「地域包括ケア研究会報告書」を見ても、「認知症の人たちへのケアがよくなる」というようには考えられないことを心配していたと明かして、そのような時に、「つどい」が開かれたことに意味があると述べました。

さらに、認知症の人によいケア、よい医療を届けようと、本当にがんばっている専門職の皆さんの待遇を改善してほしいと訴え、「待遇を保障してこそ、認知症の人・家族も幸せになっていく」と述べました。

 

テーマ2:変わらなければいけないこと


宇都宮さんは「認知症の人が、医療を必要とする時に、適切な時に、その人に本当に必要な医療を受けることを支える医療者でありたい」と述べた上で、「認知症があることを理由に、入院を断らないこと」が医療側に求められる課題として挙げました。

また、「提供しようとしている医療が認知症の人にどう影響するのか」を考えて、医療を受けた結果、生活の場に戻れなくなってしまうようなことを避けるために、場合によっては医療を踏み留まることの大事さにも触れました。

 

介護の立場から橋本さんは、武市さんが基調講演で解説した調査で、「できていること」のコンセンサスがほとんど得られなかった理由の一つに、「できている施設」と「できていない施設」の差がかなりあることを挙げました。その上で、すべての介護保険施設にお願いしたいことが「生活環境の改善」であると述べました。

「介護保険サービス事業者集団指導資料」という資料で、特養や老健などの各事業の“基本方針”を比較すると、「明るく家庭的な雰囲気を有し」という文言が共通して含まれているものの、実際は、その部分に相当な施設間格差があることを指摘し、「生活環境」を統一していくこと、ハード面以外の工夫が必要なことを強調しました。

 

テーマ3:入り口問題

 

森先生は「入り口問題」への対応として重要なこととして、「切れ目なく継続した支援をかたちにすること」「生活を奪わない医療」「侵襲性を最小にしていくこと」などが大事だと述べました。

それらを目指す上で課題となることは、独居や貧困など、条件の悪い人のアクセスをよくしていくための方法論と技術を確立していくことだと指摘しました。

 

辻先生は、「入り口問題」について、「システムをつくることによって解決する問題」「感度を上げることによって解決する問題」「社会のあり方を問うことによって解決する問題」に分けて説明し、それぞれの対応を示しました。

「システムによる解決」には、行政や医師会が地域包括ケア推進機構と協力して「パスの作成」を行うことを提案し、「社会のあり方を問うこと」としては、認知症に関して我々の意識をかたちづくっているものを考え、描き出し、共有することが有用だと、考えを述べました。

 

テーマ4:医療の現場から

 

辻先生は、認知症医療を考える前に踏まえておきたいこととして、認知症病理の中核である中枢神経系の加齢変化について解説しました。その上で、「入口問題と連動する認知症の早期診断と治療の問題」「認知症医療の水準」「医療の守備範囲の検討」という認知症医療の3つの問題について言及しました。

 

宇都宮さんは、入院環境が患者さんにとって、とてもストレスになること、そのストレスが認知症の人の周辺症状を悪化させることがあることを説明しました。医療による侵襲ではなく、入院環境による侵襲をどこまで最小限にできるかを考えることが課題のようです。

また、急性期病院でできることの参考として、国立長寿医療研究センターの実践を紹介し、「病院の認知症看護の底上げを目指すこと」が大切だと述べました。

(国立長寿医療研究センターの実践は、「ナーシング・トゥデイ」2月号で紹介しています)

 

テーマ5:認知症ケア

 

介護の立場から杉原さんは、ケアの現場では「他者の都合」から「本人の都合」へと、認知症ケアの視点が“本人志向”のものに変わってきていることを指摘しました。

一方で施設への入所については、本人の意思決定がないまま進められることも多くあることを課題に挙げ、認知症の人の今までの生活や人とのつながりを大事にして、暮らしを支えていく視点がこれから求められていくことを述べました。

 

橋本さんは、橋本さんが常務理事を務める同和園施設の生活環境の整備を通して、人が変わり、人の行動が変わったことを実感していると述べ、ケアにおける「環境整備の重要性」を指摘しました。その根拠に「レビンの法則」についても解説しました。レビンの法則とは、B=f(P・E)という式のことで、これは人間の行動(B)が、個人(P)と環境(E)によって常に変化することを意味します。

また、「脱・施設」(自宅ではない在宅)というキーワードに挙げて、施設がいかにして自宅に近い環境をつくっていくが課題である、と考えを述べました。

 

テーマ6:排除されやすい人たち


宇都宮さんは、「身体疾患を持っていて、認知症を持っている人」を排除されやすい人として挙げました。例えば、がんを抱えている認知症の人が当てはまり、そのような人の場合、精神的な不安定さが影響して、適切ながん治療を受けることができない問題があることを述べました。

また、がんの告知は通常、本人に行うものの、認知症の人には告知できずに、代わりに家族が治療・暮らし方、場所を決定せざるを得ない実態もあるようです。

 

地域包括支援センターの立場から三輪さんは、緊急入所となった要因分析や本人・養護者の経済状況の調査結果を紹介し、「養護者自身も援助が必要な状態で、行動力が期待できない方をいかに援助していくか」「経済的な支援の検討」などが重要であることを指摘しました。

 

テーマ6までのディスカッションが終わった後、指定発言者として成本先生が「京都府北部の認知症医療の現状」について発表しました。京都府北部では、医療・ケアの資源が不足気味である一方、きっちりとした連携関係が構築されており、京都市でもそのネットワークは参考になるのではないか、と述べました。

 

パネルディスカッションの最後に森先生は、「今日の議論を、会場の皆さんと共有したかった。京都式地域包括ケアがまだ流動的な要素を残している時に、京都の認知症ケアがどうあるべきかを描くことは、私たちの責務」と述べて、さらに認知症を生きる彼・彼女たちからみた地域包括ケアが、未だ十分に言語化されていない中で、そこに“言葉を与えていくこと”が、今回の「つどい」の趣旨だったと説明しました。

 

④へつづく

 


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