本稿では、高齢者糖尿病に関して、症状の1つである低血糖とインスリン療法に注目します。また、高齢者糖尿病の対応事例を紹介します。
高齢者糖尿病の概要
高齢者糖尿病とは、65歳以上の糖尿病のことと定義されています。高齢者糖尿病の中でも、75歳以上の高齢者と認知機能・ADL低下がある一部の65~74歳の糖尿病について、特に注意すべき「高齢者糖尿病」と位置づけられています。
2019年に実施された国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる者」「糖尿病の可能性を否定できない者」を合わせた割合が65歳以上では4割近くを占めており、加齢に伴い糖尿病に罹患する割合が増加していることがわかります。
高齢者糖尿病の特徴
❶ 低血糖を来しやすく自覚症状が乏しい
高齢者は無自覚低血糖や低血糖時に頭がくらくらする、ふらつき、めまいがするなど、非典型的な症状を呈することが少なくありません。低血糖は加齢によって生じる頻度が増加し、80歳以上で最も重症低血糖を来しやすいといわれています。また、低血糖を繰り返すことで起こりやすくなる無自覚低血糖も、特に高齢者ではよく認められます。
❷ 老年症候群を来しやすい
老年症候群とは、加齢に伴い見られる介護・看護が必要な症状の総称です。高齢者糖尿病で起きやすい老年症候群には認知機能障害、うつ状態、ADL低下、サルコペニア、フレイル、転倒や骨折、低栄養、排尿障害などがあり、糖尿病患者では非糖尿病患者より約1.5~2倍老年症候群を来しやすいとされています3)。糖尿病は要介護認定のリスクを高めることから在宅医療との結びつきも強く、介護保険などの社会サービスが必要になるケースも少なくありません。
❸ 高血糖症状を自覚しにくい
高齢者糖尿病では、口喝、多飲、多尿などの高血糖症状を自覚しにくく、また、空腹時高血糖より食後高血糖を来しやすく、脱水や感染症を契機に高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state、以下:HHS)になりやすいです。特に85歳以上では、HHSの頻度が高いといわれています。