【SPECIAL INTERVIEW】患者安全と医療の質向上のために TeamSTEPPSを活用しよう



 

 

髙橋 則子さん

 

1977年慈恵看護専門学校卒業後、東京慈恵会医科大学附属の4病院中3病院に勤務。師長、副部長、看護部長・副院長を歴任し、2013年より現職。1991年日本看護協会看護研修学校(管理専攻学科)修了。2006年産業能率大学経営情報学学士、2012年認定看護管理者取得。

 

患者安全と医療の質向上のために

TeamSTEPPSを活用しよう

 

東京慈恵会医科大学附属病院看護部・医療安全管理部は、医療安全の方略である「TeamSTEPPS」の活用法についてまとめた書籍を6年ぶりに改訂・改題し、『医療安全を推進するTeamSTEPPS®実践事例 チームが成長する7つのツール』として上梓しました。執筆者の一人である髙橋則子さんにお話をうかがいました。

 

 

 

組織全体で運用するコミュニケーションツール

 

 

——TeamSTEPPS(以下、チームステップス)を導入した経緯を教えてください。

 

チームステップスは、米国の医療研究・品質調査機構(以下、AHRQ)と国防総省が合同開発した医療安全に関するチームプログラムです。コミュニケーションとチームワークスキルを学習することによって、患者安全と医療の質向上に取り組めるように設計されています。

 

2000年代当時、東京慈恵会医科大学医学部看護学科教授の住吉蝶子さんから、患者安全を高めるための効果的なコミュニケーションツールとして、チームステップスのSBARを紹介していただきました(図表1)。SBARは、多職種で構成される医療チームメンバー間の情報共有において、相手が理解できる内容をタイムリーかつ手短に伝えられるという特長があります。そのSBARを学ぶために、2006年に6人の看護師が米国へ研修に行くことになりました。研修を受けた彼女らを通じて、看護部にSBARを導入していったのが始まりです。

 

 

2010年には、本格的にチームステップスに取り組むことが当時の病院長の方針として打ち出されました。2010年と2013年には、米国のチームステップスのトレーナー研修、マスターコースなどに何人かのスタッフが参加し、指導力を高めていきました。現在も、それらの経験やノウハウを生かしながら、チームステップスを運用しています。

 

――チームステップスを院内に導入し、どのような効果がありましたか。

 

多職種間で話がしやすくなった、コミュニケーションが取りやすくなったということが第一に挙げられますね。とくに看護師が医師にも意見を言いやすくなったのではないかと思います。

 

例えば、チームステップスのコミュニケーションツールの中には、「CUS」や「2チャレンジルール」というものがあります。「CUS」(Concerned・Uncomfortable・Safety Issue)は、不安なことは「不安である」と躊躇せず表現するもので、「2チャレンジルール」は、患者安全のために自分の気づきや考えを最低2回は発信するというルールです。

 

医師でも間違えることはありますから、看護師が「間違いではないか」と感じたときに、それを提案できるツールがあって、そのツールを組織全体で運用することの意味は大きいですね。
また、経験の浅い看護師の教育にも役立っています。師長や主任が若手看護師に患者の情報を尋ねる際に、状況だけでなく、SBARを意識して「あなたはどう考えたの?」と提案を促しながら聞くようになりました。まだまだ提案まで至らないことも多いですが、このようなやりとりは看護師の観察力・判断力を高める訓練になっていると思います。

 

 

チームステップス導入のヒント

 

――本書のポイントを教えてください。

 

チームステップスの概要について解説している2章を刷新したことが大きなポイントです。2023年に、AHRQはチームステップスの新バージョンである「TeamSTEPPS®3.0」を公表しました。3.0では、医療ケアチームの中心に患者が入り、持続可能性(Sustainability)の重要性が示されています。本書では、これらの最新情報を盛り込んだことで、チームステップスの理解がよりいっそう深められるのではないでしょうか。

 

2章ではさらに、心理的安全性のある環境を整える重要性や、組織変革を成功させるプロセスなどについても触れていますので、チームステップスを導入・運用するヒントになると思います。
また、5章にはCOVID-19流行時におけるチームステップス活用の項目も新たに設けました。

 

――本書をきっかけに、これからチームステップスを導入しようとした場合、どのように取り組めばよいでしょうか。

 

現場が共通の問題意識を持って組織に働きかけることが重要だと思います。例えば、対応が遅れて患者に影響が出た事例や、感染防止対策の徹底ができなかった事例などがあるとしたら、それらの問題を改善するためにチームステップスが必要であるということを、医療安全部門を中心として組織に説明していくのはどうでしょうか。影響力のある医師の力を借りるのもよいかもしれません。

 

本書はあくまで、当院におけるチームステップスの活用を紹介しているものなので、本書を参考に自施設に合った取り組みにつなげてほしいと思います。

 

 

新刊案内

『医療安全を推進するTeamSTEPPS®︎実践事例
チームが成長する7つのツール』
東京慈恵会医科大学附属病院看護部・医療安全管理部 編著

 

CONTENTS

第1章:SBARとチームステップス導入の経緯と医療安全への効果/第2章:チームステップスを効果的に導入しよう!/第3章:主なコミュニケーションツールの考え方と事例/第4章:医療現場におけるSBARの活用/第5章:研修でコミュニケーションスキルを磨こう!

 

DATA

B5判200頁
定価3,300円(本体3,000円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2365-9
日本看護協会出版会(Tel 0436-23-3271)
※本書は『TeamSTEPPS®を活用したヒューマンエラー防止策』の改題・改訂版です

 

看護2024年5月号より

 

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