SPECIAL BOOK EVENT 「医療者のための新人共育ノート」出版記念コーチング大会

2022年9月25日(日)に、奥山美奈氏の「医療者のための新人共育ノート: 強みを引き出し やる気を高める」(以下:共育ノート)の出版を記念して開催されたコーチング大会をリポートする。

 

■リソースフルにすることの意味

 

最初の演習課題は「相手をいい気分にさせること」。TNサクセスコーチングの認定コーチと参加者が2人1組となり、1回目はコーチが、2回目は参加者が聞き手となって、3分間ずつ実施。楽しかったこと、うれしかったこと、面白かったこと、仕事っていいなと思ったことなどを相手から聞き出した。

 

奥山氏によると、これは「相手をリソースフルにする問いかけ」なのだという。つまり、自分には能力がある、自分はできるとポジティブな思考や感情を持てるようにすること。看護師はよく患者に声かけをするが、そのときに「リソースフルにする声かけができると、次の訪室も楽しみにしてもらえる」のだという。

 

また、感情がポジティブな状態でなければ、よい未来を思い描くのは難しいので、目標管理面談を効果的なものとするためにも、最初の3分間を使って管理者がスタッフをリソースフルにしてから実施することを勧めた。

 

奥山氏が代表を務める会社

 

■マインドセットの実践

 

次に参加者は、共育ノートに収載されている「リフレクションシート」を使い、3分間で「あなたが親や養育者/先輩にしてもらったこと」「あながた親や養育者/先輩にしてあげたこと」を書き出した。

 

奥山氏によると、この演習の意味は「感謝の気持ちを抱く体験をすること」にあるという。書き出してみると、ほとんどの人は自分がしてもらったことは多いのに、自分はほとんど何も返していないことに気づく。指導者が言葉で「感謝しなさい」と言うと強要されていると受け止められ反感を招くだけだが、自らしてもらったことを書き出していくと、自然と感謝の気持ちが生まれ、謙虚なマインドセットができるのだという。

 

奥山氏は、「自分の改善点を考え行動計画を立てるには、自分と向き合うエネルギーが必要なので、恩返しをしたいという前向きな気持ちで取り組むことが大切なのです」と説明した。さらに、「今の時代は、あえて教えなければ感謝することができない人がほとんど」と指摘。今回のような振り返りをしてもらうことで新人に「感謝することの大切さ」を教えていくことが重要とした。

 

 

■ラポールが切れる体験

 

奥山氏から、話す側には「自分の欠点」を話し、聞く側(コーチ)には「相手を子ども扱いして話を聞く」というロールプレーの指示が出された。次に役割を入れ替えて、聞く側に「めっちゃ叱りながら話を聞く」という指示が出た。参加者は笑いながらもコミュニケーションにおいてどんな聞き方がラポール(信頼関係)を切ってしまうのかを実感したようだった。

 

また、話を聞く側が時間を気にしたり、他の人の話ばかりしたりすることで相手は自分が重要視されていないと感じ、ラポールは切れてしまうのだという。さらに奥山氏は、欠点を話してくれた相手の気分を高める手法として「リフレーム」(見方を変えること)についても説明。尊敬される指導者になるためにリフレーム力を高めておくようにと呼びかけた。

 

■パワハラにならない叱り方

 

次に奥山氏は、共育ノートの一節「上手なほめ方・叱り方」を説明。パワハラになりかねないのは、「そんなんじゃこれから看護師としてやっていけないよ」「仕事が雑」といったあいまいな「無条件否定」の叱り方で、それを防ぐには具体的な条件や行動を否定する「条件付き否定」にすべきとした。条件付き否定は修正しやすいので相手を追い詰めることがない。ほめ方については、「あなたが病棟に来ると雰囲気がパッと明るくなるね」など、具体的な条件や行動をつけない「無条件肯定」が、相手の自己肯定感を高め、居場所があると感じさせるとし、積極的に使うことを勧めた。

 

模擬面接では、「防衛機制」の「知性化」(恐怖や不安を隠すためにわざと知性的な難しい表現などを使うこと)をする人や、「先読みの誤り」という「認知のゆがみ」(物事を悪い方悪い方へとつくり上げてしまうこと)のある人へのコーチングに挑戦。また、嫌な思い出とよい思い出を語る人を観察し、あらためて人は話している内容によって、表情や視線、声のトーンなどが変わることを学んだ。

 

■共育ノートの使い方

 

奥山氏は、今回テキストにした共育ノートの使い方も説明。「本書の一番の特長は、巻末に『私の共育ノート』という書き込みができるところをつくったことです。指導する側が、指導する相手に対して、伸ばしたいところ、改善させたいところ、それらを具体的にどんな言葉で伝えるかまで書き留めておけるシートがあります。上手なほめ方や叱り方ができているか、指示的な対応と非指示的な対応を適切に使い分けられているかを振り返ることができるチェックシートもあります。また、『新人に身につけさせたい20の行動』のチェックシートは社会人基礎力を行動レベルに落とし込んだもので、これを使うことで簡単に新人の社会人基礎力の定着度をはかることができます。その他、『セルフコーチングシート』や『リフレクションシート』、演習問題、ケーススタディなどもあります。たくさん書き込みをして、1冊を1人の新人の指導の思い出として保存し、次の新人のときには、ぜひ新しくもう1冊買ってもらえればと思っています(笑)」と締めくくった。

 

 

医療者のための新人共育ノート
強みを引き出し やる気を高める
奥山美奈 著
●B5判/176ページ
●定価2,640円
(本体2,400円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2535-6
日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

日々のOJTから目標管理面談まで、指導する人・される人、双方の力を底上げ!

 

看護2022年12月号より

 

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