SPECIAL INTERVIEW 「看護実践にいかすエンド・オブ・ライフケア」 編者と著者が語る『第2版』に込めた思い

 

 長江弘子さん(写真右)
東京女子医科大学看護学部教授・
日本エンドオブライフケア学会副理事長
 内田明子さん(写真左)
聖隷横浜病院総看護部長・前日本腎不全看護学会理事長

 

人生100年時代といわれる現在、生きることを身近な大切な人とともに考え、その人の生きるを支えるエンド・オブ・ライフケアの必携書籍が改訂されました。編者・長江弘子さんと執筆者・内田明子さんに本書の読みどころや込められた思いをうかがいました。

 

 

 

 

——『初版』の2014年発行から4年目、『第2版』発行となりますが、エンド・オブ・ライフケアをめぐる状況は変わりましたか。

長江 『初版』発行時にはまだ新しい用語であったエンド・オブ・ライフケアは、今では「その人の生き方を支えるケア」であると共通理解されるようになりました。また、「患者」を人生を生きている「その人」として、過去・現在・未来の時間軸で捉えることの大切さも認識されるようになりました。

 

——『第2版』の改訂のポイントはなんでしょうか。

長江 2016年に、エンド・オブ・ライフケアの実践知を学問として広く学際的に積み上げる場として一般社団法人エンドオブライフケア学会を設立しました。この活動を踏まえ、『第2版』では、わが国の生活文化に即したエンド・オブ・ライフケアをより深く学ぶことができるように組み立てました。

「理論編」では、哲学、社会学、保険制度、研究動向などの見地からエンド・オブ・ライフケアを問い、社会のあり様としてのケアを考えることができるように構成しました。また、エンド・オブ・ライフケアのプロセスとして重要な意思決定支援であるアドバンス・ケア・プランニングは、基本的な内容を整理しました。

「実践編」は書名のとおり「看護実践にいかす」ための展開であり、本書の核となる部分です。看護の実践事例として、病状の初期から重症期・看取りまで、多様なエンド・オブ・ライフケアがあることの理解を深められるように、執筆者の方々には見直しをしていただきました。

 

——内田さんは『初版』から、「実践編 第3章」で、「腎不全とともに生きる人と家族へのエンド・オブ・ライフケアのアプローチ」を執筆されていらっしゃいますね。

内田 腎不全に対する透析治療は社会復帰をめざす救命治療です。しかし、患者の高齢化により延命治療の要素が強くなり、10年ほど前から透析の目標をどこに置くかが問題となってきました。複数の疾患を持つ高齢者にとって、特に終末期は透析をすること自体が体に負担がかかりつらいことです。透析の継続を患者は本当に望んでいるのだろうか、人間としての尊厳が損なわれているのではないか、看護にあたる私たちには葛藤がありました。そのような中で知ったエンド・オブ・ライフケアの概念「人の生活や人生に焦点をあててQOLを最期まで最大限保ち、その人にとっての良い死を迎えられるようにすることを目標とする」ことは、私たち看護師が大切にしてきたことはこれなのだと、心にストンと落ちました。長江先生に講演に来ていただき、「延命至上主義」から「生命の質重視」へと変えなくてはならないと思ったのでした。『初版』ではそのような思いも込めて執筆しました。

 

——終末期患者の透析治療に対して、日本透析医学会ではどのような動きがありましたか。

内田 学会は2012年に「慢性血液透析療法の導入と終末期患者に対する見合わせに関する提言(案)」を提示しました。その後の検討・作成の委員として、患者団体や看護師として当時日本腎不全看護学会理事長であった私が参加しました。そして看護の意見として「透析の導入・継続等に関しては、患者による決定を基本としているので、患者が納得して非導入・継続中止を選択したのであれば、それを尊重し最期まで支えることが看護師の立場である」ことを表明しました。

日本透析医学会は2014年に提言(案)を一部修正し、タイトルも    「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」に変更して発表しました。提言の「おわりに」には『誰もが必ず迎える死の瞬間までどのように生きたいかという「線」の視点を持ったケアの提供がなされるべき』と述べられており、私たち看護師が大切にしてきた生活の質を重視した、エンド・オブ・ライフケアの概念と一致するものになりました。

 

——臨床現場での患者さんとのかかわり方として、何が大切でしょうか。

内田 現在の透析の目標は長期的生存だけではなく、「暮らしを中心に概ね幸せ」です。看護師は、話し合いの場をつくり、患者の望む生活の質について話を傾聴し、そして揺れる患者の気持ちを受け止めます。がんなど合併症のため透析を中断しても、緩和ケアにより症状が安定してくるとあらためて考え、透析を再開する場合もあります。『第2版』では、透析導入・中止・再開など、「多様な病の軌跡」の図を追加しました。

長江 エンド・オブ・ライフケアが必要な局面で、その人にとって何が最善かを、医療職や介護職も一緒に、病院でも地域でも話し合うことが大切ですね。職種の違いにより意見が異なっても、対立ではなく、お互いの違いを認めわかり合い、「この患者に何ができるか」をともに考えることが大事です。

 

——最後に読者へのメッセージをお願いします。

内田 患者はどうしたいのか? 何を大切にしているのか? その人らしい暮らしとは? 看護師はエンド・オブ・ライフケアの視点からキーワードを発し、話し合いの場をコーディネートすることが求められていると思います。

長江 今後は、エンド・オブ・ライフケアについて話し合える安全な場を地域でもつくり、広めることが必要です。人々が自らの最期について考え語り、覚悟をもって決めていく……。語ることで準備性が高まるように、看護師が働きかけることで社会のあり様も変わっていくでしょう。これからも日本の生活文化に即したエンド・オブ・ライフケアを、読者の皆さんとともに形づくっていきたいと思います。

 

 

看護実践にいかすエンド・オブ・ライフケア

第2版

 

長江弘子 編

●B5判 272ページ

●定価(本体2500円+税)

ISBN 978-4-8180-2120-4

発行 日本看護協会出版会

(TEL:0436-23-3271)

[内容]

理論編:1.生活文化に即したエンド・オブ・ライフケア/2.エンド・オブ・ライフケアが必要とされる日本の社会的背景/3.エンド・オブ・ライフケアのプロセスとしての意思決定支援

実践編:1.エンド・オブ・ライフケア実践のための看護アプローチ/2.疾患の特性を踏まえたエンド・オブ・ライフケア/3.病いとともに生きる人のエンド・オブ・ライフへのアプローチ/4.子どもや高齢者のエンド・オブ・ライフへのアプローチ/5.エンド・オブ・ライフケアを支える地域づくり