地域ケアの今(22)

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

転居という一大イベント

文:上野まり

 

春は引っ越しの多い季節です。職場の異動や学校の入学・卒業などの時期だからでしょう。わが家も今春に大学を卒業した息子が自宅に戻り、慌ただしい引っ越しがありました。

 

息子の友人A君は東北で就職先を探し、引っ越したと聞きました。A君の一家は都内に暮らしており、1人だけ地方へ行くのが意外だったので、A君のお母さんに「どうして?」と聞いてみました。すると、「東北に祖父母がいるのよ。私たち夫婦も地元だからいずれは戻る予定だけど、息子は一足先におじいちゃんの所に行くっていうの」と話しました。そんな選択肢もあるのかと初めて知りましたが、最近になって“孫ターン”という言葉を聞き、もしやA君の選択はこのことだったのかと思いました。

子育て世代の地方への転居

“孫ターン”

孫ターンについて調べてみると、都会から孫が祖父母の住む地域に移住するという意味でした。子育て世代が地方に移住する際に、まったく縁のない所ではなく、祖父母の暮らす場所を選択するということのようです。農業に従事する孫もおり、農村回帰にもつながっています。数年前からメディアで取り上げられており、私が疎かったようです。

 

知り合いのいない地方に移住するのは勇気がいりますが、小さいころから通い慣れた祖父母が暮らす地域、いわゆる「うちの田舎」「おじいちゃん・おばあちゃんの家」には馴染みがあったり、幼少期からの近所付き合いがあったりするので、移住のハードルが低くなると考えられています。しかし、実際には便利な都会から不便な地方の暮らしに慣れるまでにはさまざまな課題があるようです。

 

私の住む地域は、高齢化率が約30%で、今後、高齢化が急速に進むと予測されており、近所には高齢者世帯が多くなってきました。そのせいか、最近、1人暮らしになった老親の家に越して来る、親を思う長男一家の姿をよく見かけるようになりました。中には転職までして戻ってきた人もおり、大変な決断をしたのだと思いました。向こう三軒両隣を見ても老夫婦や高齢者の1人暮らしばかりだったため、住民としては、働き盛りの頼もしい世代が引っ越して来くるのは大歓迎で、なんだかほっとした気持ちになります。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2017年7月号)