訪問看護ステーションの管理者が地域のニーズを的確に捉えて健全
な経営を行い、その理念を実現するために行うべきことを、公認会
計士・税理士・看護師の資格を持つ筆者が解説します。
渡邉 尚之
法人経営と定期昇給
皆さんの訪問看護ステーションには定期昇給はありますか? 定期昇給とは毎年一定の時期に、年齢や勤続年数等の個人の属性に応じて賃金(主に基本給)を上げる制度です。例えば4月にスタッフの勤続年数等に応じて基本給を昇給させることなどです。
定期昇給と似た意味合いの言葉としてベースアップがあります。ベースアップとはスタッフ全員の基本給を底上げする賃金改定です。定期昇給との違いは、定期昇給は一般的に年齢や勤続年数に応じて法人が賃金設計等を行い、それらの条件区分ごとに昇給幅が異なるのに対して、ベースアップはスタッフ全員の賃金が一律・同額で上昇する点です。労使交渉の春闘(春季生活闘争)などでよく耳にする「ベア」は、このベースアップを指します。高度経済成長期など物価が上昇していた時期には大きな意味を持っていましたが、近年はベースアップをする法人は少なく、定期昇給のみを行うところが多い印象です。
定期昇給には、法人の賃金制度に基づき年齢等に応じて決定されるいわゆる年功序列型と、人事評価や業績等によって決定される成果主義型等があります。訪問看護ステーションでは、折衷型ともいえる、管理者が1人ひとりの勤続年数・勤務態度・スキル等を考慮して個人ごとに昇給額を決定することが多いでしょう。なぜなら多くの訪問看護ステーションは小規模事業所であり、制度に基づく評価方法(人事考課制度)が馴染みにくいからです。一方で、病院の看護部門では、人事考課制度等に基づき昇給額を決定するケースが一般的です。病院は組織規模が大きく、看護師長などの管理職は評価者としてのスキルを身につけるために考課者研修を受け、自部門のスタッフをラダーや目標管理等に基づき評価します。訪問看護ステーション管理者の中にも、そうした経験を自ステーションの昇給決定に生かしている人は多いでしょう。
本稿では、10人前後の規模のステーションを想定し、定期昇給について解説します。
→続きは本誌で(コミュニティケア2020年3月号)