一般社団法人 日本医療福祉建築協会は、医療福祉建築に関する研究・計画・設計者と他分野の人々が、ともに学び、考える場として、毎年「医療福祉建築フォーラム」を開催しています。
9月19日・20日に行われた「医療福祉建築フォーラム2019」から、「平成30年自然災害による病院の被害状況と事業継続に関する調査研究」報告のうち、「豪雨・水害に対する病院設備の備え」に関する講演内容をご紹介します。
講演「豪雨・水害に対する病院設備の備え」
鈴村明文(株式会社 長大 社会事業本部まちづくり事業部)
2018年7月、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨による河川の氾濫、土砂災害が相次ぎ、1府13県で200名を超える死者・行方不明者が出るなど甚大な被害が発生しました。
株式会社 長大(総合建設コンサルタント事業)の鈴村氏より、愛媛県大洲市の病院の被害状況と、そこから得た教訓および水害対策への知見について報告がありました。その一部をここで紹介します。
■愛媛県大洲市・O病院
鉄筋コンクリート造、地上5階建て、95床
被害状況は次の通り。
・7月6日23時、駐車場が冠水
・7月7日6時、床上浸水240cm
・同9時、停電
・同13時、水が防水パネルを越え、院内浸水
※エレベーター、エスカレーター、諸設備の基盤が水没
・7月10日、病院機能を仮復旧し、外来診療開始
・7月11日、予定手術開始
このときの豪雨で同様の床上浸水被害を受けた近隣病院では、診療の一部再開は2ヶ月半後だったところもあったにもかかわらず、O病院では3日後には病院機能を仮復旧し、診療再開という驚くべき対応力でした。
それは、この病院の付近一帯が過去に2回、水害を経験していたことが大きかったようです。
病院のそばを流れる肱川は地元では洪水河川として知られていましたが、病院の新設にあたっては、必要な用地確保の理由からこの敷地を選定するしかありませんでした。そのため、あらかじめ過去の災害経験を踏まえて災害リスクを十分に把握し、対策を講じた上で、「水害に強い病院」を建設していたのです。
具体的には、浸水を防ぐ様々な建築的工夫を施すとともに、浸水の影響を受けないように、1階はピロティにして駐車スペースとし、外来を2階に、3~5階を病棟と手術室等に当てました。また、野外設置の受水槽などは基礎の高さを高くし、自家発電設備などは屋上に設置していました。
加えて、平時から職員に防災教育を行い、水害に対する意識の向上をはかるとともに、訓練を繰り返し実施していたことが、速やかな復旧につながったようです。
地震国のわが国では、防災訓練というと地震を想定することが多いですが、O病院では年に1回、防水訓練を行い、防水板・防水シートの設置の仕方や排水ポンプの使用方法の確認などを行っていました。
昨今、台風による豪雨被害とそれに伴う水害が増え、被災地では大がかりなハード対策が行われています。しかし、それだけではなく、O病院の事例から、地域の特性と災害リスクを十分に把握し、職員にいざというときに取るべき行動について常日頃から周知しておくこと、そして「自らの命は自らが守る」という意識を徹底しておくこと、というソフト面の対策も重要だということが明らかになりました。
つい先日も、台風15号・19号や千葉県豪雨と河川氾濫による甚大な災害が起こったばかりです。都心のタワーマンションで地下に設置されていた電気系統設備が水没し、停電や断水が続いたことはニュースで大きく取り上げられました。
近年、毎年のように繰り返される豪雨災害。鈴村氏は、これらの経験を教訓に、今後は「知識から実践へ」「病院完結型から地域完結型へ」「ハードとソフトの連携へ」と舵を切り、「災害に強いまちづくり」を行っていかなければならない、と締めくくりました。