これまで限定的に行われてきた感のあるスピリチュアルケアを“ケアリングの応用”と位置づけ、「看護ケアとの関連」「日本人の死生観」「仏教の世界観」など、多方面から考察したのが本書『実践的スピリチュアルケア』です
日本スピリチュアルケアワーカー協会副会長であり、臨床での実践経験も豊富な大下大圓さんにお話をうかがいました。
■スピリチュアルケアを学ぶと看護が変わる
スピリチュアルケアとは、看護の基本姿勢である「傾聴・受容・共感・支持」を踏まえ、さらに一歩踏み込む行為です。スピリチュアルケアを理解することによって、看護の質が格段に高まります。患者さんのメッセージ(言葉と態度)に含まれたスピリチュアルペインは、日常のケアでは見逃されていることが多いものです。それをキャッチしてサポートすることは、クライアントが自分の人生に意味を持ち、肯定するための手助けになります。これは日々のかかわりで十分可能な「ケアリングの応用」だと考えています。
■“自利”“利他”どちらから始めるべきか
スピリチュアルケアの実践方法に決まりはありません。瞑想(自己洞察)を通して自分を知る“自利”に関心を持つ人もいれば、患者さんにかかわる“利他”の実践を早速始めたい人もいるでしょう。どちらか一方だけを深めるのではなく、双方をバランスよく実践してください。大切なのは、実践を通しての“動的な気づき”と、瞑想における“静的な気づき”を意識し、クライアントと自分のスピリチュアリティに敏感になることです。
本書についても、必ずしも順に読み進める必要はなく、第2章の“自利”や第3章の“利他”に取り組み、その後で第1章「基礎知識」に立ち戻って理解を深める方法でもよいでしょう。
■臨床現場に取り入れるときの留意点
スピリチュアルケアは個人プレーだと誤解されやすいのですが、チームや仲間の輪はとても大切です。ときには複数で実践内容をシェアできる関係性を持ってください。自分のケアを客観的に見つめる場は、成長の大きな助けになります。
また、看護の仕事には、そもそも周囲のサポートが不可欠です。つらくなったときに、ちょっと話を聴いてくれる仲間やご飯に誘ってくれる先輩の存在は、スピリチュアルケアそのものです。これは誰にでもすぐできることですから、ぜひ、管理者の方にもご配慮いただきたいですね。
■自分なりの死生観を育むための出張講座
スピリチュアルケアの前提として、医療分野での「死生観」教育は欠かせません。そこで私が非常勤講師を務める京都大学では、医師・看護師・ソーシャルワーカーの卒後教育として、理論学習と体験学習を組み合わせた「定番型の死生観教育プログラム」を作成し、市内の病院へ出向いての連携講座を始めました。どの病院でも実施可能なアクションリサーチの手法で、グループワークを通して死生観を深めていきます。指示型ではなく自発的に学べる手法なので、はじめは「僧侶から仏教の教理を押し付けられるのではないか」と懸念があった受講者からも、最終的には「とてもよい学びを得た」という感想をいただいています。このプログラムは適宜公開していく予定です。
■今後のスピリチュアルケアの展開
1988年のWHO「健康の定義」以降、臨床でのスピリチュアルケアの捉え方は大きく変わってきています。そして、医師よりナースのほうが関心の深さや分野の広がりは先んじているかもしれません。本書でご紹介した事例のように、非常に多彩な展開が可能です。
日本スピリチュアルケア学会の内部会議では、入院患者さんにスピリチュアルケアを希望するかを問う「意思表示カード」を作成する案も挙がっています。今後はスピリチュアルケアが社会的なニーズとして認識され、病院サービスとして定着する時代になっていくでしょう。ナースの皆さんには、積極的に学びを深め、実践していってほしいですね。
-「看護」2014年7月号「SPECIAL INTERVIEW」より –