SPECIAL BOOK GUIDE その言葉を看護の立ち位置から考えてみよう! 『看護倫理を考える言葉』刊行!

日常の臨床現場において、看護職はさまざまな倫理的な問題に直面します。それらとどのようにして向き合っていけばよいのでしょうか? 本書では考察の糸口として「言葉」に着目しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■本書の意図
本書は、看護職や患者が語った言葉、本や講演などで出会った言葉、あるいは新聞やテレビなどの言葉に光を当て、その文脈や背景に流れる看護倫理を考えました。書いていく途中で、「看護倫理とは、広義には、社会のあらゆる倫理的な問題を看護の立ち位置で考え、発言することである」というメガン-ジェーン・ジョンストンの言葉に出会い、本書の視点について意を強くしました。

 

■看護が持つ複雑さとは
医療専門職の中で、看護が持つ複雑さは独特です。そのいくつかを「言葉」とともにつづってみますと、まず1つ目に挙がるのが責任の複雑さでしょう。看護師は患者に対して責任があるし、患者の家族にも医師にも他の看護師にも、さらには所属施設にも責任があります。「これを『真ん中の看護師』と名付けましょう。複雑な関係性の中で、看護師の責任は何をおいても患者であると言いたいのですが、現実には、実践で確かにそうだという証拠がみつからないのです」と、2016年の日本看護倫理学会年次大会で講演したクリスティン・ミシェル氏は述べていました。

 

ミシェル氏が実践する米国ですらそうなのかと思うほど、看護師の立場は複雑です。さらにこれからは、認知症人口や救急患者の増加などにより、患者自身の自己決定が難しい状況がさらに増え、看護師の役割がますます重要になっていくでしょう。「真ん中の看護師」のぶれない看護が試されます。

 

2つ目は、看護師の道徳的・倫理的な体験の複雑さです。ビーチャムらが「数ある医療職種の中で、看護は至る所で葛藤を抱えるという点で最も特徴的な職種である」と述べるように、看護師は次のような葛藤を日々体験しています。

A:目の前の状況が何かおかしいと感じるが何が問題なのかがはっきりせず、どう行動したらよいかもわからない「道徳的不確か」、
B:望ましくない2つの行動の中でどちらかを選ばなくてはいけないという岐路に立たされている「道徳的ジレンマ」、そして、
C:所属組織や人間関係等の制約のため、自分が正しいと判断したことを実行することができない「道徳的苦悩」。

 

これらの葛藤は他職種にもあるでしょうが、看護ほどこれらに関する文献が豊富な職種はないと思います。看護は、それらの葛藤を、職場環境や倫理教育の向上をめざす視点で検討してきました。そしてその延長線上に、「道徳的レジリエンス」という概念が最近生まれています。これは、日々の業務におけるつらい体験を糧に成長していく看護師がいること、および、そのような看護師が持つ復元力としなやかさに着目した概念で、ナイチンゲールの自然治癒力につながる概念が、看護倫理の視点で探求されているのです。

 

そして3つ目が看護の歴史です。ジョンストンは、「とくに重要なことは、看護倫理は固有の歴史を持っているということだ。それは今日我々が享受しているようなものではなかった」と述べます。これは、看護には医師に従属して働いた歴史があるということを指しています。それはもう過去のものかといえば、必ずしもそうではありません。今でも、看護師は自分の従属者だと思う医師は少なくないし、また、そう思っている看護師もいて、そのことが、今日の看護実践と看護倫理を複雑にしています。

 

■看護倫理の歴史と重要性
現在、医療における倫理に関しては、看護倫理のほかに、生命倫理や医療倫理を含むいくつかのアプローチがあります。その中で、看護倫理は最も長い歴史を持ち、ナイチンゲール以来の170年余りを看護実践と共に歩んできました。一方、生命倫理や医療倫理が生まれたのは1970年代以降です。

 

「賢者は歴史に学ぶ」という言葉がありますが、看護倫理なくして、看護が明確な学問として発展し、社会から正当に認められることができたでしょうか。再びジョンストンの言葉です。「看護を実践する者は、他の職種にはなくて看護職だけがもつ一連の体験(道徳的苦悩を含む)をする。また、看護師は他の職種と関わり合い、協働関係を持つが、その関係性の中で意思決定し行動する上で、『これは明確に看護だ』という体験をどうしてもする。その体験を避けたりはぐらかしたりはできない。看護師に看護倫理が不可欠だというのはそういうことなのだ」。

 

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看護実践がある限り、看護倫理を守り、育てていかなくてはなりません。
(著者「あとがき」より抜粋し、編集)

 

 


『看護倫理を考える言葉』

小西恵美子 著
●A5判 108ページ
●定価(本体1600円+税)
ISBN 978-4-8180-2137-2
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

 


→看護2019年1月号より

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