NT2013年8月号の連載「楽しく読んじゃう 新★看護学事典」では、看護学事典2版で「共感疲労」の解説を執筆してくださった武井麻子先生(日本赤十字看護大学教授)からエッセイをおよせいただきました。
ケア提供者の心理的疲弊
しばらく前からFacebookを利用していますが、最近、職場を辞めたという若い看護師の投稿が載っていました。どうやら勤務中に急変した患者を救えなかったことが、きっかけのようです。申し訳ないという気持ちが綿々と綴られていました。
こうした現象は、よく「バーンアウト」という言葉で語られますが、彼女はまだ卒業して3年です。燃え尽きたというにはあまりに早すぎる気がします。むしろ、「共感疲労」として捉えるべきなのでしょう。
共感疲労とは、「二次的外傷性ストレス障害」ともいい、外傷的な体験をした人を見たりその話を聞いたりした人が、当人と同じような心理的疲弊状態に陥ることをいいます。傷つき苦しんでいる人を前にして、「何とかしてあげたい」と思うのは人として自然なことですが、これを「共感ストレス」と呼びます。一方で、恐怖のあまり、「逃げ出したい」「見たくない」「聞きたくない」と思うのも自然なことなのです。共感ストレスには、前に引っ張られる力と後ろに引き止める力の葛藤もありそうです。
ですが、事態が圧倒的で「何もしてあげられない」という思いに駆られる時、無力感や罪悪感、無意味感に襲われます。そうした状態に陥る心理的疲弊状態が共感疲労です。フィグリー(Figley CR, 1999/2003)は、「他者をケアすることから生じる魂の疲弊」「恐怖がつくり出したものを対象とする仕事を日々続けるうちに生じる魂の疲弊」と言っています1)。
東日本大震災以後、言われるようになった「惨事ストレス」もこれに近いでしょう。原語は“critical incident stress”(緊急事態ストレス)です。急性期化し、重症患者を次々と受け入れる病院では、医療者は日常的に惨事ストレスに見舞われていると言えます。傷つき追い詰められているスタッフのためにも共感疲労対策が不可欠なのです。
(続く)
★共感疲労