病棟から精神科訪問看護に飛び込んだこころさんが、看護大学で働くカワウソ先生との対話を通して在宅の精神科看護を学び、成長していく物語です。
川下 貴士 ●かわしも たかし
松蔭大学看護学部看護学科精神看護学 助教
第6回 100点満点じゃなくても
前回のあらすじ
こころさんは調子を崩して入院してしまったAさんになにができるか、悩みました。しかし、「心理教育」の一環としての服薬支援や治療同盟についてカピバラ先生から教わり、再び前を向きます!
こころ カワウソ先生、実はとってもうれしい報告があります!
カワウソ こころさん、すごく素敵な笑顔ですね。どうしましたか?
こころ それが……Aさんが退院してから、2週間ほどたっているのですが、状態が安定しているんです。
カワウソ それはよかったです! 状態が安定している、ということはお薬も継続的に飲めているのでしょうか?
こころ 実はAさん、入院したときに糖尿病であることがわかって、薬が増えたらしく……。その際に病棟の看護師さんから服薬支援を受けていたという話も聞いたのですが、薬を飲むことに関する考えは入院前とあまり変わらないように感じました。ただ、カピバラ先生から教わったこと*1を実践してみたら、今のところうまくいっているんです!
カワウソ ふむふむ。どんな説明をしたのか、ぜひ聞かせてください。①
POINT①
現実世界では、患者さんの個人情報を公にするのは厳禁ですよ!
Aさん/40代男性/統合失調症・糖尿病/幻聴・妄想あり
学童期のいじめをきっかけに不登校となり、そのまま数十年間引きこもっている。両親が亡くなるまで同居していたが、5年前から賃貸アパートにて1人暮らし。精神科病院への通院はなんとか継続していたが服薬ができずに入院。その後、入院によって精神症状は安定したものの、糖尿病であることがわかった。退院後、週1回の訪問看護を再開し、2週間がたった。
こころ はい。まず、これまで薬を飲んでほしいと思っていたのは私の一方的な思いだけで、Aさんの思いをないがしろにしていたことを反省しました。それも踏まえて、Aさんに薬を飲むことに対しての思いを聞いてみたんです!
カワウソ おっ、質問したんですね! Aさんはどう思っていたんでしょうか?
こころ Aさんは「できることなら薬は飲みたくない。入院中もずっとそう思っていた」と話してくれました。病棟でも本心は言えなかったみたいです。
カワウソ そうですか。薬を飲みたくない理由も聞けましたか?
こころ はい! 深掘りしていいのか不安はありましたが、Aさんをもっと理解したいと思って聞いてみたら、「飲むと呂律が回りにくくなるから嫌」とのことでした。私も初めて、Aさんの薬への思いを知ることができました。②
POINT②
Aさんとこころさんのこれまでの信頼関係があったから、Aさんも本音を話してくれたのではないでしょうか。
カワウソ 薬を飲みたくない理由は、やはり副作用でしたか……。そんなAさんにこころさんはどのように説明したんですか?
こころ 最初に、Aさんが入院する直前の様子を確認しました。Aさんは、幻聴に1日中悩まされて生活がままならなかったことや、となりのアパートの人が自分に文句を言っていると思って、怖くて外に出られなかったことなどを話してくれました。
カワウソ 「生活のしづらさ・困り事」を確認したんですね。
こころ そうです! そのときのAさんの気持ちも確認しました!
カワウソ うんうん、症状の確認も必要ですが、そのときの思いを確認することも精神科訪問看護では大切です。
*1 本誌2025年2月号参照
→続きは本誌で(コミュニティケア2025年2月号)