行動変容をそっと促す ナッジを使ったアプローチ㉕

ナッジとは、人の心理特性に沿って望ましい行動へと促す設計のこと。ゲストスピーカー・医療職のタマゴたちとともに、看護・介護に役立つヒントを示します。

 

 

 

ナッジで睡眠時間の確保は難しい?

 

竹林 正樹

たけばやし まさき

青森大学 客員教授/行動経済学研究者

 

石田 陽子先生

いしだ ようこ

株式会社心陽CEO
本郷睡眠センター心陽クリニック院長

 

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医療職のタマゴたちが交代でナッジを学びます。

金田 侑大さん

城戸 初音さん

難波 美羅さん

 

 

なかなか手放せない夜のスマホ

 

竹林 前回に引き続き、心陽クリニック(東京都文京区)で睡眠外来をしている石田陽子先生にお越しいただきました。

石田 よろしくお願いします。

金田 こちらこそ、お願いします! まずお聞きしたいのは、睡眠時間の確保に役立つようなナッジはあるのでしょうか?
石田 生活習慣へのナッジに関する系統的レビューでは、睡眠に関するナッジの研究は極端に少ない1)と報告されています。つまり、世界中の研究者の間でも「睡眠とナッジ」については苦戦していることが推察されます。ですが、課題を細分化していけばその切り口は見えてきます。
金田 それなら……、「なんとなく夜更かししてしまう人たち」ではどうでしょうか。

 

石田 わかりやすいターゲットでよいですね。2024年4月号で「バスケットボール選手に10時間ベッドに入るように指示したら、パフォーマンスが大幅に向上した事例」を紹介しました。さて、金田君がバスケチームのメンバーにこの話をし、全員が「よい話を聞いた」と納得したとします。果たして、その日から全員が早寝をするようになるでしょうか?
金田 ほとんどのメンバーが普段と変わらず、夜になるとスマホをいじっていると思います(笑)。
石田 私もそう思います(笑)。「早寝をしたほうがよい」と頭では理解していても夜になるとダラダラしてしまうのは、認知バイアスと外部要因の影響が考えられます。夜は現状維持バイアスが強くなる傾向がありますので、日中はスマホゲームを30分でやめられる人でも、夜になると「もう少し続けようかな」という気持ちになり、結果としてずっとゲームから離れられない可能性がある、ということです。また、企業は消費者の認知バイアスをよく知っているので、夜遅い時間になると強い誘惑を仕掛けてきます。消費者はそれに釣られてしまい、脳はますます興奮状態に陥るというわけです。

 

特定のテーマに関する世界中の研究を系統的に集め、検証し

た論文

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2024年6月号