佐藤 美穂子さん
訪問看護ステーションの顧客と人材に関するマネジメントにフォーカスした『訪問看護ステーションの顧客管理と人材管理・育成』を刊行しました。監修・執筆者の公益財団法人日本訪問看護財団の佐藤美穂子常務理事にインタビューし、本書の概要や特長のほか、顧客管理や人材管理・育成における留意点や工夫点、さらにステーション管理者へのメッセージもいただきました。
——訪問看護の需要が高まる中、ステーション管理者の役割も多様化し、顧客や人材という“ひと”に関するマネジメントはより重要になってきますね
厚生労働省「介護給付費等実態統計」によれば、訪問看護ステーションの数は13,775カ所(2023〔令和5〕年6月審査分)で、医療保険による小児や精神の訪問看護に特化したステーションも合わせると14,000カ所ほどになるため、全国では14,000名の管理者が日々さまざまな訪問看護管理業務のほか、利用者宅への訪問看護にも従事しています。病院などの看護管理者の管理業務とは大きく異なり、小規模事業所が大半を占める中、多くの管理者は経営面にも関与し、収支状況に直結する顧客確保・管理とスタッフ等の人材確保・育成が重要な役割となります。
——そのような背景から発行された本書ですが、改めてその概要や特長を教えてください
本書は、当財団監修の既刊書『新版 訪問看護ステーション開設・運営・評価マニュアル』 の姉妹編として、ステーション管理者の多岐にわたる業務のうち、特に「顧客」である利用者・家族および関係職種・機関、そして「人材」として働く訪問看護師をはじめスタッフに関するマネジメントに焦点を当て、多職種連携、キャリア形成支援、ハラスメント対策、ストレスマネジメントなどにも言及しています。ステーション管理者としての役割を存分に発揮していただくために必要な内容が凝縮されています。
——ステーション管理者として顧客管理を行う際の留意点はどのようなところでしょうか?
本書ではピーター F.ドラッカーの著書から引用して、「顧客の創造」ということについて説明しています。それは「顧客そのものを増やす」というだけでなく、「顧客のニーズに応える」「顧客が気づいていなかったニーズを発掘する」という意味もあり、顧客のニーズが満たされているかどうかの「マーケティング」と、新しい満足を生み出す「イノベーション」が必要なことを押さえておくべきでしょう。そして、顧客とは改めて誰を指すのか。直接的には利用者とその家族になりますが、地域の関係職種・機関もまた重要な顧客であり、その管理には「個別管理」と「全体管理」があるという認識も必要でしょう。
——「個別管理」と「全体管理」とは具体的にどういった業務でしょうか?
「個別管理」とは、利用者一人ひとりの看護を通してWell-beingを実現するための管理、一方「全体管理」とは全利用者の増減や年齢・疾病・重症度別の分布、保険の種別などを包括的に管理することです。地域の関係職種・機関に対しては、個々に特徴を知り連携状況を管理することと、地域包括ケアシステム全体を俯瞰して自ステーションが地域のニーズを満たすための役割を見出し、安定的な顧客の確保、ひいては経営の安定につなげるために行う管理もあります。本書では、経験豊富な現場のステーション管理者の執筆による実践事例も掲載されていますので、「管理者としての支援のポイント」などに注目して、顧客管理だけでなく、スタッフの育成にも役立てていただきたいと思います。
——本書のもう一つの柱は人材管理・育成ですが、スタッフの確保・定着のためにはどのような工夫が必要でしょうか?
まず、自ステーションでは「何を大切にしているか」を理念として示すこと。Webサイトや広報紙でPRし、スタッフの募集においても、不安なく訪問看護に従事できるようにOJT などの支援が充実した職場であることをアピールしてリクルートします。特に新人の育成には時間と労力が必要で、報酬請求ができない同行訪問も増えますので、小規模ステーションではスタッフの定着を図ることが経営上も重要なポイントになります。そのためには、スタッフの希望やライフイベントへの配慮、ハラスメントのない職場環境の整備なども重要です。
——スタッフの育成においてステーション管理者に何を望まれますか?
訪問看護は単独での訪問がサービス形態の基本となることから、カスタマーハラスメントの予防対策、
警察への通報システム、看護記録などの充実を図ることも求められます。就業するスタッフの背景はさまざまですが、それぞれの持ち味を把握し、どのように力量を引き出していくかは管理者の基本姿勢やかかわり方に大きく左右されます。本書には、チームの一員として活動できるスタッフを育てる管理者の温かいまなざしと、管理者自身への励ましにもつながるエピソードが散りばめられており、それらは日々の業務においてきっと参考になるでしょう。
——最後に、エールを込めてステーション管理者に贈るメッセージをお願いします
訪問看護は看護そのものが顧客から直接評価を受けるサービスで、スタッフの技能や人間性も含めてステーションの総合力が発揮され、スタッフにとってはとてもやりがいのある仕事です。本書巻末の「資料編」には、日本看護協会が策定した「看護実践能力」や「看護実践能力習熟段階」なども掲載されており、スタッフのキャリア形成に役立つでしょう。また、特に管理者は孤独になりがちですが、地域ではステーションの仲間や多職種と情報共有ができるネットワークが支えとなります。本音で語り合える場を設けて、管理者自身のストレスマネジメントにつなげたいものです。地域包括ケアにおいて訪問看護の重要性は誰もが認めています。街の“人明かり”となって健康維持から病気や障がいがあっても最期まで安心して暮らせる社会づくりを共に推進しましょう。
書誌情報
訪問看護ステーションの
顧客管理と人材管理・育成
公益財団法人
日本訪問看護財団 監修
●B5判 244ページ
●定価3,960円
(本体3,600円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2599-8
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)
[主な内容]
序 章 訪問看護ステーション管理者の役割
訪問看護サービスの運営管理/スタッフの確保・育成と管理
ほか
第1章 顧客管理
顧客とは/利用者の安定的な確保と管理 ほか
第2章 人材管理・育成
体制整備/人材育成の方法 ほか
資料編