発信力を高める文章講座 書き始める前に考えること

発信力を高めるために必要なのはテクニックだけではありません。

看護記録を書くとき、論文を書くとき、すべての文章を書く前に

知っておいたほうがよい大切な考え方をお伝えします。

 

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伝えるための基礎練習part1

 

因 京子

前 日本赤十字九州国際看護大学
看護学部教授

 

 

皆さま、お久しぶりです。本誌2019年6月号から2021年8月号まで文章の書き方について連載する機会をいただき、その後、連載の内容をまとめた『看護現場で役立つ文章の書き方・磨き方論理的に伝える技法』を2021年10月に上梓しました。おかげさまでご好評をいただき、少し内容を増やした第2版が、今年9月に発売されることになりました。これに先立ち、第2版に加わる予定の章の1つ「伝えるための基礎練習」を2回に分けてご紹介します。

 

 

文章の目的にぴったり合う言葉

 

文章を書くうえで最も重要なことは、「目的」と「相手」を明確に認識することですが、言葉に関する知識をもつことも重要です。誰が読んでどう思ってくれればよいのかを考え抜かなければ、どのような事柄をどのような言葉を使って書くべきかが見えてきませんし、どのような表現を選ぶかによって、書く内容は大差なくても印象は大きく異なります。目的に合わない選択をしてしまうと残念な結果になることは言うまでもありません。

 

では、もつべき言葉の知識とは何でしょうか。ざっくり言いますと、「語彙(語の集合体)」と「用法と文体的特徴の知識」でしょう。語彙のサイズ、つまり、知っている語の数は、大きければ大きいに越したことはありませんが、実は、誰でもすでに相当数の日本語の言葉を知っているはずです。また、用法の知識もあります。日本語を外国語として習い始めた人はしばしば「バスを乗ります」と言ったりして、違うと言われると「えーっ、どうして?〈drive a car〉は〈車を運転する〉、〈push a button〉は〈ボタンを押す〉ですよね。同じ〈他動詞+目的語〉なのに、なぜ〈take a bus〉は〈バスに乗る〉?」と不思議がります。「なぜ」と言われても普通の人は理由なんか知りませんが、〈バスを乗る〉では変だということはわかります。用法の知識があるからです。さらに文体的特徴についても、例えば、「〈危険だ〉〈危ない〉〈やばい〉はほぼ同じ意味だけれども職場の記録には〈やばい〉はダメ」とか、「〈あの女性〉〈あの女の人〉は普通だけれども、〈あの女〉にはうっすら悪意が感じられる」といったことを、習ったわけではないのに知っています。しかも、〈やばい〉がダメなのと「バスを乗る」がダメなのとでは、ダメの質が違うということもわかります。このように母語話者は膨大な知識をもっているのです。

 

 

→続きは本誌で(看護2023年8月号)