福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。
介護現場ではやりの言葉遣い
文:鳥海房枝
医療現場で患者に「様」をつけて呼称することについての議論が始まったのは、「厚生白書」で医療がサービス業であると明言された1995年ごろからです。サービス業なのだから患者をお客様と捉え「様」をつけるべきという考え方がありました。そして2001年、「国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針」で「患者の呼称の際、原則として『さま』を付すことが望ましい」という内容が示され、多くの病院がそのようにしました。つまり、国が患者を様づけで呼ぶよう求め、全国に広がっていったのです。当時、この状況に私は強い違和感を覚え、東京都看護協会の地区支部役員会でそれを話題にしました。すると、ある公立病院の師長は「患者に丁寧な対応をするようになるので意味がある」と言いました。
その後、現場で働く医療関係者はもとより、当事者である患者にも「様」呼称について調査が行われました。その中で大変興味を引かれたのが、様づけで呼ばれることに対して患者の肯定的な回答率が低く、「違和感がある」「よそよそしい」「日本語としておかしい」といった否定的な意見が多くあったことです。そして現在は、あえて「様」から「さん」に戻した医療機関、直接患者に接するスタッフは「さん」、窓口対応は「様」と使い分けている医療機関、一律に「様」呼称している医療機関などに分かれています。
なんのための丁寧語?
私はセミナーや第三者評価で介護現場を訪れる機会が多くあり、利用者と職員のやりとりだけでなく、評価の際には利用者の個人記録も見せてもらいます。ここで目にする利用者の呼称には、事業規模で特徴があるようです。