精神看護キーワード 多職種間で理解を共有するために知っておきたい119用語

 

1975年千葉大学教育学部特別教科看護教員養成課程卒業、1984年ハワイ大学看護学部修士課程(CNSコース)修了(看護学修士)。東京都民生局、小林病院(看護師)の臨床経験の後、東京女子医科大学看護短期大学を経て、杏林大学保健学部看護学科教授、三重県立看護大学・大学院教授、地域交流研究センター・センター長、共立女子短期大学看護学科学科長、東京慈恵会医科大学看護学科・大学院教授、山陽学園大学大学院看護学研究科精神看護学(CNSコース)教授を歴任して2015年より心の相談室荻窪室長、有馬高原病院ナースサイエンティスト。2017年より奈良学園大学保健医療学部看護学科教授。著書に「精神症状のアセスメントとケアプラン」(メヂカルフレンド社)、「精神看護学Ⅰ・Ⅱ 第5版」(ヌーベルヒロカワ)など多数。

このたび当社より刊行しました「精神看護キーワード」は、保健師、病棟看護師、訪問看護師、精神保健福祉士、介護福祉士、作業療法士、薬剤師、ケースワーカー、看護学生……など、誰もが活用できる用語解説書です。総編集者の川野雅資さんに本書のねらいを述べていただきました。

■精神保健医療福祉の現状
日本の精神医療は入院中心医療から地域精神医療へと変化してきました。入院患者数は若干減少しているもののまだまだ多いと考えられます。
一方、地域精神医療の最近の変化として、精神科外来患者、精神科診療所受診者、病院と診療所の訪問看護利用者、そしてデイケア利用者など、精神保健医療福祉を利用する人の増加が見られます。そして、精神保健医療福祉の対象は、家庭から学校や職場までと範囲が広がり、一般住民、施設、身体疾患の患者、地域住民、地域社会へと拡大しています。
精神保健医療福祉は、従来も多職種チームアプローチが常でした。地域精神医療が推進されて、その実態がさらに広がりました。多職種チームアプローチを担う各職種は、それぞれの教育背景を持ち、役割と機能を果たしています。それぞれの職種で使用され合意形成された用語は、他職種では違う意味になる用語も存在します。精神医療が大きな変貌を遂げ、精神看護の分野では聞き慣れない用語や聞いたことはあるものの正確には理解できていない用語が多く使用されています。看護教育者であっても、精神保健医療福祉分野での新しい用語の出現には追いついていないのです。
■用語の選出と解説

本書は、これから学ぶ看護学生を始めとして、入院の場と地域の場でケアを担う看護職者、看護教育者、そして看護職以外の他職種の専門家、非専門家にも必要な「聞き慣れない用語や聞いたことはあるものの正確には理解できていない用語」をわかりやすく解説するものです。知識として知っておくだけでなく、実践時にはどのような使い方をするのか、認識のズレが生じやすい用語の正確な理解を促すことを目的としています。
用語の選出にあたっては、看護学の代表的な精神看護学の教科書5冊の索引、精神医学の教科書2冊の索引を検討しました。さらに、入院と地域精神医療の場で働く看護師5名と、本書の主旨に沿う用語の抽出について対話の機会を設け、議論しました。
その結果、以下の5つのことが判明しました。
①:日本語の用語だと多少の推論がつくが、外国語になるとその用語の意味を正確に理解しないと推論が及ばない用語。例えば、「レジリエンス」や「メンタルヘルスリテラシー」のようなカタカナ用語は正確に理解できていませんでした。
②:専門的教育を受けていない教育者、臨床看護師、学生が、例えば「共感」や「傾聴」のように一般通念的理解で用語を使用するために、聞いたことはあるが正確に理解できていない用語がありました。
③:臨床で発展した用語、例えば「クライシスプラン」のように精神看護の臨床、医療観察法の病棟で一般的に使用されているものの、一般精神科医療の臨床や地域精神医療の臨床ではまだ浸透していない用語がありました。
④:例えば「発達障害」のように、臨床看護師はアスペルガー障害や広汎性発達障害を想定しているが、訪問看護師は軽度知的障害と理解している用語がありました。
⑤:例えば「リエゾン」と「コンサルテーション」のように、ある程度は理解しているが正確にその内容まで理解していない、あるいは違いを説明できない用語がありました。
これらのことから、精神看護の広範囲にわたる用語の中から将来の精神医療の方向を踏まえ、解説の必要度の高さなどを考慮して119語を精選しました。そして、精選した用語を理解し、臨床で活用できるようにすることを用語解説のねらいとしました。
できるだけ詳しい説明を心がけつつ、用語の背景、状況、必要性などの視点で専門家がわかりやすく記述することとしました。可能な限りエビデンスに基づいて解説を試みています。また読みやすく、活用しやすいように、1用語につき2ページの構成としました。
精神保健医療福祉は、ますますその対象と場、必要性が拡大していくと思われます。精神保健医療福祉看護を学ぶ学生、臨床家、教育者、そしてさまざまな職種の人たちが共通言語として活用できる書となることを願っています。

 

精神看護キーワード
多職種間で理解を共有するために知っておきたい119用語

川野雅資 総編集
●B5並製 256ページ
●定価 本体3,000円+税
ISBN 978-4-8180-2050-4
日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

 

-「看護」2017年7月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –