1972年高知県立高知女子大学家政学部衛生看護学科卒業。同大学助手を経て、1973年東京白十字病院、1986年日本看護協会訪問看護開発室、1995年旧厚生省訪問看護係長、介護技術専門官、看護専門官を経て2001年より財団法人日本訪問看護振興財団(現公益財団法人日本訪問看護財団)事務局次長、2002年より現職。
地域包括ケアシステムの充実を目指し、予防から看取りまで、地域に開かれた看護サービスの拠点として、ますます期待される訪問看護ステーション。その開設・運営・評価に欠かせない知識や情報を収載した本書が“新版第2版”として久々に改訂されました。本書の監修・執筆者である日本訪問看護財団常務理事の佐藤美穂子さんに、初版発行の経緯や今回の改訂のねらい、さらに訪問看護や在宅医療をめぐる動きと今後の展望についても伺いました。
――初版発行は1993年ですが、改めて本書発行のいきさつについて聞かせていただけますか。
指定老人訪問看護制度が創設されたのが1992年ですから、初版発行はその1年後ということになりますね。新しく創設された制度の下で、訪問看護ステーションの開設・運営・評価という一連の流れをしっかりマニュアル化し、皆が不安なくこの事業に取り組んでいけるように、そして“訪問看護”という仕事の面白さ、楽しさ、やり甲斐といったところを感じてもらい、看護職の多様なスキルを地域で存分に発揮してほしいという思いから出発したわけですが、その発行趣旨は今回の改訂においても変わっていません。
――1997年に新版となって以来、久々のリニューアルになりますが、今回の改訂のねらいや特筆すべき点はどのようなところでしょうか。
今回の改訂では、昨年成立した改正介護保険法の理念に基づき、地域包括ケアシステムの中での訪問看護ステーションが果たすべき役割というところを特に意識しました。「施設から在宅へ」「医療から介護へ」、また「看護と介護の一体的提供」といった方向性の中で、訪問看護ステーションは多職種連携の拠点として、市場の動向を見極めながら、より多角的に展開していかなければなりません。
もちろん「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」や「複合型サービス(小規模多機能型居宅介護+訪問看護)」といった新たに誕生したサービス、また診療報酬・介護報酬同時改定の内容もしっかり盛り込みました。ステーションの収入の基盤となるところですから、理解が深まるように、詳しくかみ砕いて解説しています。
ここ数年、訪問看護ステーションの設置数が伸び悩んでいましたが、ここへ来てようやく6,000カ所を超えたところです。しかし、まだまだ増やしていく必要があり、本書によってそのお手伝いができたらよいなと思っています。
――おっしゃるとおりですね。ぜひ本書を活用いただいて、訪問看護ステーションが増えていくことを願います。今後の展望も含めて、訪問看護や在宅医療全般の動きについてお聞かせください。
実際、訪問看護の医療・介護保険におけるシェアという点で見てみると、医療保険では0.2%、介護保険でも2%程度と、非常に少ない状況ですから、これを何とか伸ばしていかなければなりません。
在宅医療・介護の推進という意味では厚生労働省から「在宅医療・介護あんしん2012」が打ち出されており、その中の「在宅医療連携拠点事業」では訪問看護ステーションが医療・介護の連携拠点の一つと位置づけられています。また、拠点整備とともに人材育成についても、「在宅チーム医療を担う人材育成事業」として、多職種協働によるサービス調整等を担う人材を育成するための各種研修が用意されています。ここでも訪問看護師の活用、とりわけ訪問看護認定看護師などは最適な職種ではないでしょうか。
介護についても、先ほど申し上げたように「施設から在宅へ」と、地域包括ケアシステムの推進に向け、居住系施設の充実を図っているわけです。そのように医療・介護とも在宅中心に向かっている中で、医療・介護両方のことをわかっているのが訪問看護師であり、連携の調整役としての役割はますます大きくなってくるはずです。その意味でも、訪問看護ステーションを規模も含めてしっかり充実させ、地域に拡げていくことがとても大切になってくると思います。
――最後に、これから訪問看護ステーションの開設・運営にチャレンジする方々へのメッセージをいただけますか。
訪問看護ステーションを開設する、つまり「看護職として独立採算で経営できる」というチャンスを得たことはとても画期的なことです。さらに、起業した以上はその事業自体を継続・発展していってほしいと思います。そのために、本書を存分に活用してください。本書は開設の準備から開設後の具体的な運営・経営の方法、さらには評価についても網羅していますので、それらを十分に理解した上で、実際にスタッフ一人ひとりの個性を活かしながら、地域の人々に満足いただけるようなサービスを提供し、自分らしいステーションを創って運営していかれるとよいなと思います。
そこには病棟看護では得られない醍醐味があり、自分で会社を興せば“社長”にもなれるわけですから、ぜひチャレンジしてほしいと思います。
なお、私ども日本訪問看護財団は公益財団法人としてこの4月に新たなスタートを切りました。これから新しい法人として公益性の高い事業を展開し、訪問看護師の皆さんのサポーターとして、さらに訪問看護の発展に寄与していく所存です。今後とも何卒よろしくお願いいたします。
-「看護」2012年11月号「SPECIAL INTERVIEW」より –