NT2012年10月号の連載「楽しく読んじゃう 新★看護学事典」では、看護学事典第2版で「プロアクティブ・コーピング」の解説を執筆してくださった濵田珠美先生(旭川医科大学准教授)からエッセイをおよせいただきました。
長期的な挑戦
「いつか、1年か2年かわからないんだけど、まあ死ぬかもしれない。その時に家族に何が残せるかなと考えた」
これは、進行非小細胞肺がんの診断を受けた50代の男性患者が、その時に考えたこととして語った言葉です。
プロアクティブ・コーピングの解説を執筆する時、私は進行期の非小細胞肺がん患者の体験を「自己の見通しを持つ体験」として記述した以前の研究を連想しました。私は、長く肺がん患者のケアに携わった臨床経験から、彼らが進行非小細胞肺がんの病名告知を受け、厳しい現実に直面しても、ただ打ち崩れるわけではない姿を知っていました。そこで、この体験には彼らのどんな“潜在力”があるのか、インタビューをして書き起こす研究をしたのです。
ところで、なぜ、私は先述したような患者の言葉を連想したのでしょうか? おそらくプロアクティブ・コーピングという用語から連想したのではなく、事典の解説に記した「深刻な病気やそれによる長期的な挑戦」という状況が、今日の進行非小細胞肺がん患者の置かれる状況そのものだと感じたからです。
しかしながら、これは進行非小細胞肺がん患者ばかりが置かれる状況ではありません。今日のがん患者の多くが、進行がんの診断後、長期的化学療法や臨床治験に参加し延命を図っています。彼らは、長期的な挑戦を受け、日常では仕事、家事、子育て、そして、医療費のやりくりを心配して取り組んでいます。この日常の営みにおいて患者が先々を見越して取り組んでいる姿、あるいは、どうしたらよいのかと悩む姿を私たち看護者はよく知っていませんか?
先述した患者は、遺していく愛する家族の生活に不安を感じていましたが、家族のこれからをさまざまに具体的に想像し考え、治療中は仕事を続け収入を得てやればいいと思い描くようになりました。そこで、仕事が続けられるよう外来治療日を自ら医師と相談する積極的な調整をし治療を続けました。
この患者の体験のすべてを読み直し、私はプロアクティブ・コーピングでは「積極性と時間の観点」を組み入れ、より広い見方をするということを納得して書いたのです。
★プロアクティブ・コーピング
ストレッサーを突き止め、弱めようと先を見越して、率先して行う対処行動であり、能動的コーピングともいう(看護学事典第2版より)。
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