N.Focus  窒息リスク評価の標準化をめざして

 

窒息リスク評価の標準化をめざして

 

迫田 綾子 ● さこだ あやこ

日本赤十字広島看護大学 名誉教授
POTTプロジェクト代表

 

[略歴]

広島大学医学部附属看護学校卒業後、病院勤務を経て2021年広島大学大学院医学系研究科前期修了。日本赤十字広島看護大学基礎看護学、摂食嚥下障害看護認定看護師教育課程主任教員を兼務。

 


 

窒息のリスクを誰でも・どこでも・短時間で・包括的に評価できるものにすることを目標に考案された「窒息リスク評価表」。食事におけるポジショニングやケアのあり方を追求する筆者が、その開発経緯や具体的な利用法などを紹介します。

 

 

日常生活支援の質を左右する
窒息予防・対応

 

看護師が行う食事援助は、日常生活の支援であるだけでなく、窒息を防ぐことに配慮し発症時に迅速な対応が行えるかどうかが、その看護の質を著しく左右します。本稿で紹介する「窒息リスク評価表」(図表1)は、食事援助にかかわるすべての人が、短時間で包括的にリスク評価を行えるツールとして筆者が考案したものです。

 

筆者は摂食嚥下障害看護などの研修会や看護実践を行う中で、世間で表面化していない窒息事例が多々あることに気づきました。予防策を講じる施設も個々には見られますが、人の命や尊厳を守るための食の安全対策として、広く誰でも使える標準化された窒息アセスメントツールが必要だと考えていました。

 

その思いを強くしたのは、2023年の春のことでした。筆者は、ある法律事務所から窒息事故裁判に対する意見書を求められました。60代のA氏が大腿骨骨折による入院時に、術後4日目に昼食介助を受けている最中、気道閉塞となり死亡されたという事案でした。A氏の口腔内にはキャベツの千切りが残っていました。

 

診療録によると、A氏は重度のパーキンソン病で、入院時から誤嚥や窒息リスクに関する種々の徴候が見られました。覚醒不良、ADL低下で全介助(ベッド上で食事)、摂食嚥下障害、発熱、喀痰多量、入院時から常食で、パーキンソン薬も食後服用となっていました。残された診療録からは、A氏の声なき声、精一杯のSOSサインや無念さが伝わってきて、医療や看護の現実や課題を突き付けられた思いでした。

 

→続きは本誌で(看護2025年1月号/コミュニティケア2025年1月号