〈新連載〉精神科訪問看護へようこそ

〈新連載〉

病棟から精神科訪問看護に飛び込んだこころさんが、看護大学で働くカワウソ先生との対話を通して在宅の精神科看護を学び、成長していく物語です。

 

川下 貴士 ●かわしも たかし

松蔭大学看護学部看護学科精神看護学 助教

 


 

第1回 その人なりに暮らしていく

 

精神科訪問看護ステーションに転職!

 

こころ 先生、お久しぶりです! 私、A訪問看護ステーションに転職が決まりました。夢だった精神科訪問看護師になれて本当にうれしいです!

 

カワウソ おめでとうございます! 夢を実現するって、本当に素敵なことですね。ところで、Aステーションと言えば、精神科訪問看護ステーションとして有名なところじゃないですか。

 

こころ そうなんです。看護師になったら、絶対にここで働きたいと思っていたので、毎日がとても新鮮で、すごく楽しいです! ……それで、初めて先輩と同行訪問したんですが、その患者さんが、何て言うか、すごかったんです!

 

カワウソ 毎日楽しいというのは、すごくよいことですね。初めての同行訪問はどうでした? ぜひ聞かせてください。


POINT①
復唱する傾聴のテクニックです。こころさんの発言を促します。


 

こころ 私はただ座ってるだけで、何もできなかったんですけど、先輩が利用者さんと話しているのを隣で見ていると、利用者さんがすごく生き生きとしているというか……。とにかく、入院している患者さんとは違う表情が見られたように感じました!

 

カワウソ 初めての訪問でとても緊張したと思うけれど、何もできなかった、なんてことはないと僕は思いますよ。ところで、利用者さんはどんな方でした? 教えてもらってもよいですか?

 

病棟の看護と、全然違う…

 

こころ 利用者さんはこんな方でした。

 


POINT②

現実世界では、患者さんの個人情報を公にするのは厳禁ですよ!


 

 Aさん/40代男性/統合失調症/幻聴・妄想あり
学童期のいじめを機に不登校となり、そのまま数十年間引きこもっている。両親が亡くなるまで同居していたが、5年前から賃貸アパートにて1人暮らし。精神科病院への通院はなんとか継続している。訪問看護は週1回入っている。

 

こころ 1人暮らしができているので、てっきり病気のことも理解できていると思っていたんです。だけど、Aさんは自分の病気のことをほとんど理解していないように見えました……。それなのに、お薬は飲めているんですよ! どういうこと!? って訪問中はずっと驚きっぱなしでした。訪問目的は服薬支援だったんですが、病棟だったら間違いなく退院できないだろうなと思っちゃいました。

 

カワウソ それはよい気づきですね。病識がなくても薬が飲める、地域で過ごせるAさんへの訪問は、とてもよい勉強になったと思います。それに、病識がないのにどうして薬を飲めているのか、そこに疑問を抱いたこころさんは、精神科訪問看護師に向いていると思いますよ。

 


POINT

精神科訪問看護師には疑問を抱く力、物事を柔軟に考える力が大切です。


 

→続きは本誌で(コミュニティケア2024年9月号)