介護予防のための取り組みとしてグループで行う「回想法」では、高齢者が懐かしい写真や物を見ながら昔の思い出を語り合います。心が癒やされて情緒が安定したり、脳の活性化につながったりすることから、施設や地域のサロン活動などで広く実践されています。最近「院内デイケア」のプログラムとして取り入れる病院も増えています。好評書籍『認知症予防のための回想法』に加筆修正を行い、新たな写真も加えて内容のさらなる充実を図った本書の特色についてご紹介します。
■回想法の意義と効果について学べる
心理療法としての回想法は、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーによって提唱されました。
本書の冒頭で解説するように、バトラーは、高齢者の過去の回想を後ろ向きな行動とは解さず、むしろ自然な行いであり、老年期を健やかに過ごす上で重要な意味を持つものと捉えました。また、高齢になり死が近づくにつれて過去を回想する頻度が高まることは、自らが歩んだ人生を振り返り、その意味を模索する自然な過程であると考えたのです。
介護予防を目的としたグループ回想法では、心理的健康の促進やコミュニケーション・社会的行動・抑うつ気分の改善などの効果が示唆されています。
本書第1部では、愛知県北名古屋市回想法センターの回想法事業の研究結果などとともに、写真(視覚)以外の感覚刺激(匂い・音)を用いた回想法の実践とその効果についても紹介します。
■コミュニケーションのコツがわかる
第2部では、回想法におけるコミュニケーションの基本スキルである「傾聴の態度」「返答の仕方」「質問の仕方」や「記憶の種類(長期記憶と短期記憶)」などについて、わかりやすく解説しています。また、コミュニケーションの手法を身につけるため、ロールプレイを行うことを勧めています。
■グループ回想法運営のコツがわかる
第3部では、グループ回想法を運営するときの「写真の選び方」「写真の解釈方法(話の膨らませ方)」や「流行歌の活用」「男性参加者への配慮」などについて具体的に説明しています。
また、地元の懐かしい写真を選んで制作したオリジナル写真集を活用している社会福祉協議会の事例や、伝統的な農耕具である「太一車」をテーマにした回想法を行ったシニアクラブの事例からは、回想法の活動を通じて地域の人々のつながりが強化されていった様子がうかがえます。
■実践例(回想のヒント)が示されている
内容紹介(下図)で示すように、写真ごとに「回想のヒント(写真の解釈方法)」と「お話を広げるキーワード」が例示されているので、実践の場でシナリオとして生かせます。懐かしい道具や「メンコ」や「黄金バット」といった言葉に加え、「味噌作り」や「田植え」などの生活文化が織り込まれていますが、このような民俗学的なエッセンスが含まれていることが本書の特色でもあります。
■取り外して使える別冊写真集がついている
本書で紹介する21枚の写真は、昭和27年から50年までに農村や都市部で撮影された、物語性の豊かな画像です。拡大版が別冊写真集に収載されているので、回想法の実践にご活用いただけます。
鈴木正典 編
●B5判 122ページ
+別冊写真集44ページ
●定価(本体2,300円+税)
ISBN 978-4-8180-2209-6
●発行 日本看護協会出版会
●ご注文に関するお問い合わせ
(コールセンター)
TEL:0436-23-3271
[思い出が蘇る懐かしい昭和の写真]
主な内容
第1部 イントロダクション:
地域での看護・介護に活かす回想法
1 回想法の意義と期待される効果
2 地域での看護・介護に活かす回想法
3 回想法実践:特に気をつけたいポイント ほか
第2部 回想法実践①:
心をひらくコミュニケーションのコツ
1 コミュニケーションの基本スキル 解説
実践 写真1『遠足』
2 聴く力と話す力 解説
実践 写真2『メンコ』
3 長期記憶と短期記憶 解説
実践 写真3『新しい服』 ほか
第3部 回想法実践②:グループ回想法運営のコツ
5 写真の選び方(その1) 解説
実践 写真5『紙芝居』
6 写真の選び方(その2) 解説
実践 写真6『味噌づくり』(組写真で語る)
7 シナリオを創造する:想像と創造 解説
実践 写真7『散髪』
8 個人回想と時代回想 解説
実践 写真8『出会ったふたり』 ほか
→看護2019年12月号より