福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。
「舌でつぶせる料理を出すレストラン」
の出現に思う
文:鳥海房枝
高齢社会の到来をしみじみと感じるのは、商売の対象を高齢者とするCMがさまざまな分野に及んでいるのを目の当たりにするときです。これは、自らが高齢者の範疇に入る当事者だからかもしれません。以前、本欄に、全国のどこに行っても通所介護サービスの送迎車が必ず目に入ると書いたことがあります(2016年6月号)。今日、介護サービスは日本の隅々にまで行きわたり、地方都市で目立つ大きな建物の多くは高齢者ケア施設です。
介護保険法が施行されてから20年を迎えようとしています。同法の施行当初は、要介護認定の申請やサービス利用を躊躇する人々を「当然の権利」という言葉によって、いかに掘り起こすかが議論されていました。それが現在では、介護サービスの利用は多くの人々にとって特別なものではなくなりました。そして介護領域だけでなく、老いや死にまつわるものとして、健康食品や化粧品、葬儀からお墓の管理までが宣伝されています。これらは明らかに高齢者をターゲットにした商業活動です。高齢者人口が3割に達しようとしているのですから、高齢者を対象とする商業活動が活発になるのも当然です。
このような動きが、介護現場などより先行していると思わされる出来事がありました。
“極刻み食”廃止への挑戦
先日、定期検診でかかりつけの歯科医院へ行ったときのことです。もう20年の付き合いになるA歯科医師から、「“舌でつぶせる料理”を出すレストランが出現している。インターネットで情報を見られる。時代は変わった」と聞かされました。早速、調べてみると、有名なホテルのレストランから町の食堂まで、さまざまな飲食店が掲載されていました。
これを見て、介護保険法施行の2年前に開設した特別養護老人ホームに開設準備からかかわり、9年間勤務したときのことを思い出しました。当時、入所者に提供していた食事は、常食・刻み食・極刻み食・ミキサー食の4形態でした。周囲の施設もこの形態で提供していたため、なんの疑問も持っていませんでした。
ところが開設から半年が過ぎたころ、「給食会議」の席上で看護師から「極刻み食を食べている入所者の口腔内の残渣物が多い。本当にこの食形態でよいのか」と疑問が出されたのです。そこで1カ月間、極刻み食の検食を給食委員が引き受けることにしました。
→続きは本誌で(コミュニティケア2019年2月号)