「災害への備えについての本はあるけれど、災害の発生時・発生直後に看護がどうかかわればよいかが書かれたものがあまりない!」と思っていた佐々木裕子さんの企画提案から『「コミュニティケア」2017年11月臨時増刊号・訪問看護師ができる「災害時の支援」』が誕生しました。ここでは佐々木さんに本書のおすすめポイントをうかがいます。
—佐々木先生の専門は在宅看護ですが、災害が発生すると、いつも真っ先に現地に支援に行かれますね? その原動力はどこから来るのですか?
私はよく浸水する低地で生まれ育ちました。そして1948年に岩手県に甚大な被害をもたらした「アイオン台風」で、祖母や叔父たちを失ったことを知って、災害に関心を持つようになったのです。さらに、阪神・淡路大震災のときは訪問看護師をしていて、実際に支援活動に取り組んだことで「看護の目」を生かして本格的に活動するようになりました。
そして、被災地に支援に入ったとき、被災者の方に「(この大変さを)ぜひ、あなたの地域の人に伝えて、災害に備えてもらって!」と言われました。災害支援は在宅看護実践と多くの共通点があると実感していたので、いつか本書のような内容で、皆さんにお伝えしたかったのです。
―本書は看護の報告だけでなく、災害ボランティア団体から多くの報告があります。看護とボランティア団体の連携のどこが重要なのでしょう?
そもそも訪問看護の利用者は、災害時に支援が必要とされる「要配慮者」の代表的な存在といっていいと思います。しかし、現実には避難準備情報が届かず命を落とされた方や、災害関連死に至る危機状態で自宅に取り残されていた方もありました。近隣住民に救助される方が多いとはいえ、要配慮者の命を守るために「訪問看護ができる備えは何か?」と、私はずっと考えていました。
もちろん訪問看護だけで要配慮者を救うことはできません。私は名古屋市の災害ボランティアコーディネーター養成にかかわってきたので、「地域住民である災害ボランティアの力と訪問看護の力が合わされば、災害時に利用者の命を守る備えができる」と気づきました。例えば、災害ボランティアに訪問看護に同行する形で利用者宅を訪れてもらったところ、その自宅環境の災害への備えが劇的に変わったのを目の当たりにしたのです。
実際の災害の場でも、両者が連携することで「避難者と一緒に生活環境を創る」「仕方がないとあきらめない」「変化する状況や避難者の体調に合わせる」「身体に触れてどうすればよいか一緒に考える」などが実現することを実感しています。
—では次に、本書のおすすめポイントをぜひ教えてください。
まず、[プロローグ]では、阪神・淡路大震災以来、「災害関連死」について警鐘を鳴らし続けている医師・上田耕蔵先生が熊本地震での「肺塞栓症」の実態にも触れながら、災害関連死を減らす9つのポイントを解説してくれています。看護師はぜひおさえておいていただきたい知識です。
[総論]は、災害看護学の専門家として長くわが国を牽引してこられた小原真理子先生が「災害時の要配慮者への対応と地域コミュニティの課題」を論じられます。小原先生が育てた訪問看護ステーションに所属する2人の「災害看護専門看護師教育課程」修了者からの報告もあり、これからの地域における災害看護の方向性を示していると思います。
[報告Ⅰ]は、本書のメインとなる「大災害を経験した訪問看護師からの声」です。新潟県中越地震から熊本地震まで、「災害が発生して、まず何をして、その後、落ち着くまでどうしたのか」が詳細に語られています。この報告を読むことで災害直後の状況を具体的に知ることができ、減災に向けての具体的な備えが可能になると思います。
[報告Ⅱ]は、本書のもう1つのメインとなる章です。5つのNPO・NGOの災害ボランティア団体等の方が自らの活動を紹介し、「災害現場で看護と連携すること」での気づき、そして期待について述べます。これらの団体について看護職は知って、ぜひつながってほしいと強く願っています。
[解説Ⅰ]では、災害での看護を研究されている4人の看護研究者が、現場の看護職が身につけておくと、いざというときに役立つ知識を解説します。コラムでは「災害時における認知症の人へのケア」という貴重な報告もあります。
[解説Ⅱ]は、私が取り組んできた「避難所の生活環境改善活動」について詳説しています。避難所が快適な場所であるためには「看護の視点」がとても役立ちます。ぜひ、一読していただければと思います。また、「看護と災害ボランティア団体が連携した備え(減災)につながる研修」についても触れています。
—本書を読むと、訪問看護と災害支援に多くの共通点があることがよくわかりますね。
その通りです。「生活環境を整える」という点で訪問看護と災害ボランティアはもっともっと連携していただければと思います。
そのためには本書で語られるように、当事者の経験からの学び、そして五感を大切に、それぞれの避難所等の特性を生かして創意工夫してともに取り組むこと。その際には、外部からの支援を受け入れる「受援力」を含めた多職種連携が重要なのです。地域全体が“面”になるようにつながれば、災害時・災害後の被害が少なくなる「減災」が必ず可能になると信じています。
そして、災害時に病院は急性期医療の中心になりますが、地域では同時に避難所支援が始まっています。そこで看護がどう展開しているのかをぜひ知ってほしいと思います。ですから、病院の看護管理者の皆さんが、本書を手にとって「地域での支援状況」も知っていただければ本当にうれしいですね。
「コミュニティケア」2017年11月臨時増刊号
「要配慮者」を見逃さない 訪問看護師ができる「災害時の支援」
佐々木裕子 協力
●A4変型 156ページ
●定価(本体1600円+税)
ISBN 978-4-8180-2013-9
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)
-「看護」2018年3月号「SPECIAL INTERVIEW」より –