本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。
川越博美さんから井部俊子さんへの手紙
「今を生きる」に寄り添う看護
文:川越博美
「なぜ訪問看護師は制度矛盾に声を上げないのか」という井部さんの疑問に、言葉不足で十分に説明ができていなかったと反省しています。
訪問看護の創設期に、看護師たちが組織のバックもないまま現場から制度について物申してきた働きを忘れないでほしいという思いから、再度補足させていただきます。制度ができたときは、天からのプレゼントのようにうれしく感じました。当初は訪問すればするほど赤字になりましたが、それでも創設されたことに大きな意味があると考えていました。これから制度の中身を変えていけばよいと思ったのです。
訪問看護師たちは、報酬がなくても必要に迫られ行っていたことについて、データを集めて要望書を書きました。24時間対応への加算、ターミナルケア療養費、医療処置の多い人への特別管理加算……。療養通所介護や看護小規模多機能型居宅介護も、制度外のサービスをボランティアで提供していたことが始まりです。その現場も見学しました。ある訪問看護ステーションでは、事務所の一角に難病の利用者を預かり、「今日、この人は泊まっていくの」と説明してくれました。「家族を休ませてあげたいから」と。こうしたことは全国で行われていました。訪問看護師たちの新しいサービスを生み出す力に感動したことは忘れられません。
訪問看護指示書について、疑問を持つ看護師は多いでしょう。看護師が「療養上の世話」をするのに、なぜ医師の指示書が必要なのか。指示書をもらう煩雑さも相まって、訪問看護師たちは、その必要性を問うために何度も実態調査をしてきました。現在は指示書の有効期間を医師が選択できるところまでたどりつきました。
前回の手紙で、私が唐突に、人が自分の最期について真剣に考えなくなったことに対して意見を聞かせてほしいとお願いしました。大きな問題を焦点化もせずに、失礼な質問をいたしました。にもかかわらず、乳がんのご友人が見事にがんと向き合い、治療と再発を受け入れ、緩和ケア病棟で静かに生を閉じられたことを紹介してくださいました。