地域ケアの今⑭

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

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秋の雑感

今年の夏を振り返って

文:上野まり

 

今年はオリンピック・パラリンピックイヤーでした。気温が高く暑い夏でしたが、早朝にかけて応援でさらに熱くなった人もいたでしょう。4年後の東京オリンピックを視野に入れてか、日本代表選手が準決勝や決勝に進む競技が多く、私も寝不足になるとわかっていてもテレビのスイッチが切れない……という日が続きました。柔道やレスリング、重量挙げ、水泳など、これまでも多くの選手が活躍してきた競技には期待が大きく、金メダルが取れないという贅沢な悔しさを何度も味わいました。

4年、選手によっては8年、12年以上もの期間、世界トップクラスの実力を維持し続けることがどれだけ困難であるか、また老化という人知では決して解決できない壁を乗り越えることがいかに大きな課題であるかを思いしらされました。金メダルでなくても十分! 参加するだけでも名誉なことだから、胸を張って帰国してほしい! と思う気持ちは強く、勝っても負けても、一国民として気持ちが揺さぶられる感動の29日間でした。

オリンピック選手から学ぶチーム力

そんな中で印象的だったのは団体戦です。体操や卓球、シンクロナイズドスイミング、バドミントン、陸上男子400mリレーなど、個人の実力だけでなく、チームとしての総合力を十二分に発揮して戦わねば世界の強豪には勝てません。

体操男子団体の主将である内村航平選手には、「団体で絶対に金メダルを取る」という信念がありました。ほかの選手がミスをしても顔色一つ変えず、自分の演技をいつもどおり完璧にやり遂げることができる彼の強い精神力と、その姿勢が周囲に与える影響力を目の当たりにしました。トップの人が持っている信念や精神力の強さは、チームの強さに直結すると感じました。

卓球女子団体で最年長の福原愛選手は、一回りも若い初出場の伊藤美誠選手とダブルスを組み、ミスが続いて苦境に立たされる中、「大丈夫」と言い続け、伊藤選手を励ましていました。惜しくも負けてしまいましたが、その後、シングルスで戦う伊藤選手を応援する福原選手の全身には祈りが込められていました。20代とは思えないほど、若い後輩を気遣う頼もしい姿と風格を感じました。

陸上男子400mリレーでは、まさかの銀メダルが日本にもたらされ、世界最速のウサイン・ボルト選手にも感銘を与えるほどの素晴らしい走りでした。1人として9秒台/100mの記録を持っていない4人でしたが、小柄な日本人でも“技術力”でメダルを獲得できるという事実を世界に知らしめた結果となり、日本中に喜びが広がりました。

試合後のインタビューに答える選手たちの謙虚で前向きな言葉も印象的でした。1人が、チームの抱く緊張感や達成感、悔しさ、チームへの申し訳なさなどを語ると、それを聞いているほかの選手は強く共感しながら、冷静に受け止めている様子がうかがえました。また、残念な結果であっても、どの選手も下を向くのではなく、次に何をすべきか、担うべき役割や使命を理解し先を見すえて話していました。自分の責任を十分に自覚した上で、お互いの健闘を称え、感謝し合うという態度はどの選手にも共通で、どんな結果であっても決して他者を責めず、「このチームで試合ができて最高だった」と誰もが言いました。お互いを信じ、支え合っている様子がインタビューから伝わってきました。

これから日本は、地域包括ケアの時代を迎えます。その中で、私たちはこれまで以上に地域の他職種と連携してチーム力を高めていかなければならないでしょう。オリンピックの選手たちからは、あきらめない前向きな姿勢と真摯で謙虚な態度でいることの大切さはもちろん、お互いを支え合うよいチームをつくるためのヒントを学べました。

→続きは本誌で(コミュニティケア2016年11月号)