市民とともに歩むナースたち(8)

「People-Centered Care(PCC)」とは、市民が主体となり保健医療専門職とパートナーを組み、個人や地域社会における健康課題の改善に取り組むことです。本連載では聖路加国際大学のPCC 事業の中で経験した「個人や地域社会における健康課題の改善」を紹介します。

 

亀井 智子  かめい ともこ

聖路加国際大学看護学部 学部長

大学院看護学研究科 教授

 


多世代交流型デイプログラム 聖路加 和みの会

一人ひとりが輝くための世代間交流支援

 

わが国は世界でも類を見ないスピードで少子超高齢化が進展し、現在では総人口の約30%を65歳以上の高齢者が占めています1)。こうした社会の変化は、医療・看護のあり方を根本から見直す必要性を私たちに突きつけています。特に看護においては、病気等の治療だけでなく、高齢者が住み慣れた地域で、自らの生活を意味あるものと感じ、社会の一員として役割を持ち続けられるよう支える視点が求められます。

 

これまでの高齢者ケアでは、加齢に伴う心身・認知的な機能低下に焦点が当てられ、「支える側(若い世代・専門職)」「支えられる側(高齢者)」という一方向的な関係性が前提とされてきました。しかし、高齢者の語りに耳を傾けると、彼らは単に援助を受ける対象ではなく、人生経験の豊かさや深い知恵、社会に貢献したいという意欲を持つ主体的な存在であることがわかります。

 

そこで本稿では、筆者らがこれまで老年看護の実践・教育・研究を通じて重視してきた2つの概念である「互恵性」「世代継承性」を中心に、高齢者と子どもがともに輝く支援の実際を説明します。

 

プログラム発足のきっかけ

 

世代間交流とは、「異世代の人々が相互に協力し合って働き、助け合うこと、高齢者が習得した知恵や英知、ものの考え方や解釈を若い世代に言い伝えること」2)とされています。世代間交流の理論的基盤には、エリクソンの発達課題3)、ヴィゴツキーの社会文化的発達理論4)、世代間に生じる社会的相互作用による高齢者の役割喪失への適応5)などがあります。高齢者にとっては若い世代が存在することで、自身のライフレビューが促進され6)、生活の質が向上するとされています。

 

筆者らが実践してきた「多世代交流型デイプログラム 聖路加 和みの会7)」は、本学のPeople-Centered Care(PCC)開発事業の高齢者ケアプロジェクト(文部科学省21世紀COEプログラム)の一環として、地域で暮らす人々(主婦、商店主、議員など)とともに行った「認知症ケアシンポジウム」に端を発します。シンポジウムの企画から当日の運営まで、大学と市民が協働して進め、PCCのモデル化にも貢献しました。

 

同シンポジウム後の振り返りの会で、「いつでも、誰でも集える場がほしい」という意見が挙がり、筆者はその実現に向けてさまざまな準備を始めました。ただし、「誰でも」参加可能にするのはとても難しいため、小学生と高齢者をターゲットに絞り、会場は大学内に確保しました。そして近隣町会・小学校・自治体の教育委員会や介護保険課などに協力を呼びかけ、「聖路加 和みの会」(名称は市民が命名)を2007年に立ち上げました。

 

会の開催は、当初は年間40回程度、ここ数年は25回程度になっていますが、地域ボランティアの協力も得て継続してきました。高齢者は14時から、小学生は下校後に参加し、一緒におやつを食べ、世代間交流ゲームや交流書道、小物づくりなどさまざまな活動を楽しんでいます。中でも満足度が高いプログラムはおやつづくりで、いつも参加者たちの会話が弾みます(写真1)。

 

写真1▶︎小学生・高齢者・看護学生によるおやつづくり

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2025年8月号)